為替相場の世界では絶対という言葉はありません。ありえないようなことも実際に起きてしまうのが為替の世界で、確率は低くてもシナリオとして可能性のあるものは常に意識しておく必要があるのです。
市場が大きく期待した今年のジャクソンホールの講演ですが、実際に終わってみると、「イエレン」発言とフィッシャー見解で急激に利上げタイミングが早くなりそうな展開になってきていますが、さらに饒舌になる日銀「黒田総裁」の発言を加味しますと、9月21日にまさかの日銀追加緩和実施に「FOMC」利上げという可能性もまったくないわけではなくなってきています。
現状における「FedWatch」の確率は今のところ利上げ30%台で推移していますから、市場との対話を重視する「FRB」がこれですぐに利上げを断行するとは思えませんが、まだ20日以上の時間がある話ですから、さらにフィッシャー副議長と地区連銀総裁がまくし立てれば、9月の利上げ可能性もまったくない話ではなくなってきているのです。
さらに順番は逆になりますが、9月21日は「日銀の政策決定会合」の結果発表も同日に行われますので、この二つのまさかが登場するという驚きの事態も想定する必要がでてきているというわけです。
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同日開催という驚きの日程
最近の「経済指標」などの発表の中で最も市場が動くようになったのが主要国の「中央銀行」の政策発表であり、これが連日行われるだけでも相場は乱高下し、かなり投資家にとっては負担のかかるものとなってきています。
しかしだれが調整したのか今年の9月21日は「日銀の政策決定会合」の結果発表と「FOMC」の政策発表が同日に行われることになり、時間軸でいえば21日の昼過ぎに日銀の発表、その後午後3時半に「黒田総裁」会見、そして翌日朝3時に「FOMC」の発表という連続プレーが行われることになるわけです。
これまでも日を連続して「中央銀行」の政策決定会合の結果発表が行われることはありましたが、まさに同日発表というのはなかなかないもので、しかも「FOMC」の前に日銀となれば本来は日銀が様子見をするのが基本的な動きになっていました。
しかし、ジャクソンホールで両行が事前にすりあわせをして今回の講演内容がでてきているのだとすれば、日銀から「金融緩和」がでて「FOMC」で0.25%の利上げというのもまったく考えられない話ではなくなってきているといえます。
日銀の緩和内容次第で吹き上がる可能性も
「FRB」の利上げのほうは、市場が事前に十分に織り込んでいくことから前段階でドル円は上昇し、それと対照的に株価が下落することになりますから、利上げが実施されてもそのままドル円が大きく上に動くとは限らず、上値も比較的限定されそうなことになりそうです。
事前に日銀が予想外の緩和を実施した場合には、ドル円も吹きあがりを示現させることが考えられ、どのレベルまで上昇するのかはなかなか予測しにくくなりそうです。
次回から市場との対話を重視するという「黒田総裁」ですが、もしかするとジャクソンホールでの追加緩和への意欲がその政策のティーザーである可能性は否定できません。
「ブルームバーグ」のほら吹き記者が予想した金融機関への貸し出し金利をマイナスにするといった話の実現や、「ヘリコプターマネー」に一歩近づくような長期債の買い入れ、財投債の買い入れなどの枠組み拡大と金額拡大が登場した場合には一旦は大きく相場が上昇することもありえる状況です。
こうしたケースが現実になれば、少なくとも7月に一度つけた107円台中盤ぐらいまではドル円が戻ってもそれほど不思議ではないということになります。
すべての政策が登場する前に株式相場が崩れるリスクも残存
しかし、さらに何が起きるかわからないのが為替相場の面白いところでもありますから、まだ20日以上も先の9月21日の前に異なる動きが市場を支配するリスクについても考えておかなくてはなりません。
「ドイツ銀行」の空売りで110億円を稼いだと言われる「ジョージソロス」はここへ来て金関連への投資や米国の株価指数に連動する「ETF」プットの買いに動いていると報道されており、どうやら株式相場が下落することを想定しているようです。
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またかなりの確率で米国株を強気に売買してきた「ラリーウイリアムズ」も8月後半から9月相場を下向きに見ており、シーズナルサイクルを含めて米国株がNYダウもS&Pもナスダックも揃い踏みで下落をはじめると、高値で購入してきた連中が一斉に投げはじめますので予想外に売りが売りを呼ぶことになり、21日前に為替相場も大きく下落してしまうというとんでもないシナリオも想定できるのです。
とくにソロスの場合、我々一般人の手が届かないような情報をもって、売りに回っている可能性が高いことから、必ずしも無視できない存在とも言え、その動向が気になるところです。
こう書いてしまいますと上下両方向に相場が動く可能性があり、どうしていいかわからないという話になりますが、とにかく9月21日までは「黒田総裁」の口ぐせではありませんが、上下を点検しながらどちらに動いてもいいように十分に様子を見ていくことが必要になりそうです。
ただ、米国が利上げをすれば確実に株価は下がることになりますし、ことと次第では年初のような恐ろしく低迷した相場展開が示現することも予想されますからもっとも上げたところは売りで対応すべきであることだけは間違いありません。
(この記事を書いた人:今市太郎)