小学館が月2回発行している「ビッグコミック」の最新号劇画「ゴルゴ13」に海外ヘッジファンドによる日本売りが題材となって話題を呼んでいます。
舞台は日本国債市場。国内総生産(GDP)の2倍の政府債務を抱えながらも「デフレ対策」の一環として日銀が国債発行残高の30%を保有し、低金利で推移しているという現実さながらの設定になっているところがリアルなもので、これは「ミスプライシング」だとニューヨークに拠点を置く債券ヘッジファンドの敏腕女性ファンドマネジャーが目を付け、売り浴びせを画策するという内容です。
1968年から既に50年近く連載が続いている「ゴルゴ13」(作・さいとう・たかを氏)は、国際情勢をテーマに、国籍・年齢・本名不詳の「デューク東郷」が活躍する人気劇画で、幅広い年齢層から支持を受けており、漫画好きの麻生財務相も熱烈なファンとして知られています。
10日発売の次号でゴルゴ13がいよいよ登場
既に前編では、「高津財務相」や「黒沢日銀総裁」が登場し、日本売りを警戒する場面で終了しています。ファンドマネジャーはボスニア・ヘルツェゴビナ紛争下の元スナイパーで、国際通貨基金(IMF)とも結託し、経済危機国の国債を買い支えてきたという伏線も張られています。
話の中では、高津財務相が衆院予算委員会で日銀による大量の国債買い入れは「財政ファイナンス」ではないと答弁しながらも、黒沢日銀総裁に・・・
「国債市場が機能不全になっている事を忘れるな。まさかの事態にも目配りした方がいい」と忠告していますが、総裁は「日銀にけんかを売るゴジラは現れない」と笑う姿が印象的な内容となっています。
2017年には国内勢では支えきれない国債発行額の限界に到達
この劇画の中でゴルゴ13が一体誰を標的にするのかは興味のあるところですが、現実の世界に戻って考えて見ますと、日本の国債は実に9割が国内勢により保有されてきております。
劇画の中でも書かれているように、2013年の「黒田バズーカ」以来日銀が国債を買い集めることにより28.5%が日銀保有となっています。
既に1050兆円近い発行額となっているにも関わらず、この状況が日本国債の売り浴びせによる大幅な下落と金利上昇を防いできているわけで、安倍内閣はこの間、日銀による金融抑圧政策を利用して財政規律を高めることには一切手をつけずに国債発行を続けている状況にあります。
個人世帯の金融資産額は国債発行額を上回る「1700兆円」であることから、まだまだ安心であるという説も囁かれていますが、実際問題として現状の規模を超える国債発行額は既に国内では捌ききれない状況が近づいてきています。
民間のシンクタンクの予測では2017年以降は「外国人投資家の保有比率が急激に高まる」とする予測も発表されています。
実際、海外投資家による日本国債への投資は短期債を中心にじわじわと増加傾向を辿っており、2015年3月末の国債の海外勢の保有比率は9.4%(98兆円)と過去最高水準を記録しはじめています。
特に流通市場では活発で、売買シェアは現物で25.7%、先物では49.2%とそのレベルは確実に高まっており、今後日本国債が売り浴びせで「金利上昇」を辿る局面というものもまったく嘘ではなくなってきていることがわかります。
日銀の国債買いで、国内の国債市場は完全に機能が停止して、市場自体が壊されてしまったとする批難の声も聴かれるようになってきていますが、日銀が2%の名目物価上昇を大義名分に掲げて行っている量的質的金乳緩和は既に物価も株価も関係なく、この国債金利を上昇させないだけの為に行っている可能性が高いです。
この出口の見えない「金融政策」を今後どうしていくのかが大きな焦点となってきている状況です。
リアルな金融市場には日銀を支えるゴルゴは不在
10月における日銀の追加緩和に対する市場期待は高く、株もドル円も高値を継続しています。
しかし、2013年4月以降の日銀の「QE」以降株も為替も上昇する事となったものの、いよいよ断末魔の状況になれば、日銀にとっては2%の物価上昇の達成や、株価を維持することよりは金利を上げない方に舵を切る事は間違いありません。
郵政株の上場を控えて、政権からも財務省からもこの時期に株価を下げないよう協力要請が来ていると思われますが、日経平均1万8000円レベルの時期にあからさまな株価維持を目的としてETFの追加買い入れ、資金の増額を中心とする追加緩和を日銀が行うのかどうかは、疑問が生じ始めています。
残念ながら金融市場では、日銀を支えてくれるゴルゴ13の存在はなく、米国の利上げ時期が大きく後退する中にあって日銀が独自に動くことになるのかどうかが、より一層注目され始めています。
リアルな金融市場の方のターゲットは7日と30日に開催される日銀の2回の政策決定会合という事になり、ヘッジファンドも暗躍していることから相場は、結果次第で乱高下しそうな状況が高まっています。
(この記事を書いた人:今市太郎)