英国のまさかのEU離脱を受けて、金融市場では米国の利上げにさらに後ずれ観測がではじめています。
このコラムでは毎度おなじみとなっております、「CME」のFedWatchは今月からその表示方法が少しだけ変わっていますが、英国の離脱を受けて7月、9月ともに既にグラフから利上げの50-75bpsの表示がなくなり、なんと利下げしてもいいように0-25bpsのグラフまで登場するようになり、まったく利上げの公算がなくなってきていることをはっきりと物語っています。
実際利下げの予測確率は上昇しはじめており、今回のことが米国の金利にも大きな影響を与えていることがよくわかります。
利上げせざるをえない理由が急浮上
ただ、米国経済は世界情勢を鑑み、利上げを先送りだけしていればいい状況ではなくなりつつある大きな問題が浮上してきています。それが米国内の商業用不動産バブル崩壊のリスクの問題です。
「PIMCO」は6月20日付けのリポートで米国商用不動産の価格が、向こう1年間に最大5%下落する可能性があるとの見方を示し、完全に米国の商用不動産がバブル崩壊寸前に陥っていることを指摘しています。
米不動産に対する投資需要の世界的な高まりにより、不動産価格は過去最高水準に押し上げられてきたが、中国の成長減速や原油値下がり、債券市場の混乱で6年に及ぶ価格上昇が止まる恐れがあるというのは「PIMCO」の見方となっているわけです。
本来こうした状況に際しては、金融当局は利上げで対処すべきものとなりますが、世界的な経済状況を勘案すればそう簡単に上げられないものまた事実で、7月の利上げはすでにないとしても9月以降「イエレン議長」がこの問題をどう判断することになるのか、あらためて注目が集まる状況となってきています。
このまま放置しておけば米国の商業不動産バブルと一部の「REIT」バブルは必ず崩壊することとなり、回りまわって経済に影響を与えることは確実です。
まさかの事態は米国にも起きる?
Photo Reuters.com
このコラムでも「英国のEU離脱のリスク」はずいぶん書いてきましたが、これが見事に的中し、しかも各通貨の下落幅がしっかり当たってしまったことはある意味驚きです。
通常可視化されているリスクというものは、なかなかそのまま現実のものになることがないからで、さすがに英国がさっさと離脱を決めてしまったのには驚きましたが、今年の後半はまだまだサプライズが残されていそうです。その大きな目玉が「米国の大統領選挙」です。
現状ではさすがに「トランプ氏」の支持率が低下しつつありますが、英国の事前の世論調査を考えれば俄かには信用できず、まさかがあるとすればトランプ大統領という選択肢も決して否定はできない状況です。
このまさかを軸に考えるならば、「FRB」もできるときに他国の経済状況よりも自国の内容を優先して利上げを行いたいと考えるのは当たり前の話で、まだまだ利上げの可能性は残されているといえそうです。
利上げサインのポイントはS&P2134超の株価推移
市場で語られ始めているのが、S&Pの株価指数が2134を超えた段階で、「FRB」が利上げに踏み切るのではないかという説です。
「FRB」はいろいろな理由を挙げては利上げを見送ってきていますが、結局のところもっともよく見ているのは株価の推移であり、株価水準がここからさらに上がる、過去最高レベルに踏み込めば、これ以上絶好の機会はないわけで、様々な事情を勘案しても利上げに踏み切るのではないかと見られているのです。
ただ米国のさらなる利上げは相場の大幅転換点となる可能性も
米国が国内事情から利上げを急がなくてはならないのはよくわかることです。
しかし、世界経済の状況から考えればさらなる利上げは年初に陥ったリスクオフによる資金の市場からの大幅逃避が再来する可能性は高く、とくに新興国から資金が逃げ出したり、米ドル建の債券が大きなリスクにさらされることはほぼ間違いないことから、金融市場にはまたしてもリスクが高まることが予想されます。
(この記事を書いた人:今市太郎)
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