「財務省」が24日に発表した9月貿易統計速報によると、貿易収支(原数値)は4983億円の黒字で2カ月ぶりに黒字に転じています。原油価格の下落で輸入額が縮小したことなどがその要因となっています。
また2016年度4~9月期の貿易収支は、2兆4580億円の黒字となり、東日本大震災前の10年10月~11年3月期の2兆億円をようやく上回る水準にまで回復したことがわかりました。
為替相場にとっては「実需」の売買が非常に大きく影響を与えることになりますが、東日本大震災後、最大で年間13兆円近く「貿易赤字」がでて円安が進んだことを考えれば、ここからは以前のような円安には簡単に戻らないことがかなりはっきりしてきていることが判ります。
恒常的な円高はますます企業収益を押し下げ、株価の下落も招くことになりますから、円安へと動いていく要素が悉く減少してしまうことが危惧される状況です。
気になるのは輸出額の減少
また気になるのは輸出額の減少です。4~9月期の輸出額は前年同期比9.9%減少し「リーマン・ショック」直後の09年4~9月期の36.4%減以来の大きな下落幅となっていることが気になります。
中国の過剰生産のあおりを受けた鉄鋼の下落をはじめ自動車の輸出も7.7%減となっており、為替の問題だけではなく、構造的に日本の輸出が減少しはじめていることが危惧される状況です。
輸出が減るということは輸出勢のドル売り円買いも少なくなりますから、こちらも為替には「実需」ベースでの影響がでることになります。ただ、この輸出以上にボリュームを減らしているのが輸入で19.1%減は貿易黒字の増加に一段と寄与していることがわかります。
もっとも大きなシェアを占めるのはやはり投機筋による売買ですが、投機筋というのは常に買ったものはどこかで売るという反対売買をすることになりますので、「ファンダメンタルズ」でずしりと相場に影響を与えるのはなんといっても実需筋の動きということになります。
「貿易黒字」がもとのレベルにもどったということは、ここからはそう簡単には円安に動かないことを強く示唆しており、時を同じくして日銀が量的な緩和から金利をにらんだ緩和にシフトしてきていることも日銀政策決定会合のたびに簡単にドル高円安にならないことから、円安の支援材料はかなり限られることになりそうです。
ここのところ「GPIF」の外貨購入が目立ったようですが、一定のドル買いが行われれば「GPIF」の運用規模は高齢化による支払いに追われることになるため、ここからは原資自体がシュリンクすることが予想され、準公的機関がドル円をどんどん買い上げるという動きも期待できないことになります。
これまで米国の利上げや大統領選挙以降の政策などの問題からドル円がどうなるのかが語られてきましたが、足元では日本経済自身が抱える問題でどう推移していくのかにもっと目を向ける必要がありそうです。
また「デフレ」自体も一時よりは改善したものの、完全に抜け出したかどうかはかなり危うい状況で、300兆円を超える「国債」の購入と「ETF」の大規模な購入で株価は確かに下がらなくなりましたが、あとは借金が増えただけでなんら経済的な成長がはかられていないことがますます詳らかになろうとしていることがわかります。
一連の政治、経済イベントを一通りこなした時点でドル円の方向性がどうなるのかについては再度しっかりと精査することが必要になってきています。
(この記事を書いた人:今市太郎)