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9月の政策決定会合に長短金利操作付き量的・質的金融緩和なるものを打ち出した日銀ですが、さすがに11月の決定会合は様子見を決め込むものと市場は判断しているものの、市場の評価は「黒田総裁」が自画自賛するほど高いものではなく、しかも長短金利は市場の金融機関に対する配慮と見られていたものの、日銀自身もここからそう簡単に「マイナス金利」を深堀できない事情があることがわかってきています。それが「償還損」の存在です。
日銀自体にも負担が大きい金利のフラット化
既にご存知の方も多いかとは思いますが、日銀は自行で保有する国債を時価ではなく、あくまで償却原価法によって評価しており、時価で評価するのは外貨建て資産のみになっているのです。
たとえば「国債」ですと、取得価格と額面との差額を満期まで均等に損益計算書に期ごとに計上し、簿価を額面に近づける作業を行っていきますが、額面よりも取得価格が高ければ「マイナス金利」の収入は損益計算書に計上されることになるわけです。
逆に取得価格よりも額面が高ければ、これはプラスの金利収入として計上されることになります。日銀が1月に打ち出した「マイナス金利」は長期金利の低下も著しく、足元では10年債利回りでさえもマイナスに陥っています。
となれば現在市中でせっせと行っている「国債」の買いオペについても「マイナス金利」が適用されますから、額面を超える価格で取得した「国債」の保有量はこれからますます増えることになり帳簿上には償還損、つまり「マイナス金利」収入が生じることになるのです。
直近の外資系証券会社の試算によれば、その金額はすでに9兆円に迫る勢いであり、今年3月時点での日銀の自己資本残高を超える勘定になっており、当然日損失引当金などでは充当できない金額規模になっているのです。
これでは「黒田総裁」がさらに「マイナス金利」を深堀できると豪語しても、現実的な日銀の決算の仕組みから言えば債務超過をどう解消するかの方策が立たないかぎり勝手に深堀など出来ない状態であることがわかります。
今後日銀に公的資金を投入して資本金を増額させるのか?
一部のエコノミストに言わせれば国と日銀は一体なのだから、債務超過はなんら問題ないという話も聞こえてきますが、一応上場しているわけですから、このまま債務超過になりましたが何か?と白を切るわけにもいかないはずで、日銀に債務超過分を公的資金注入で補い、不足分は「赤字国債」を出して日銀が買い取ることになるのでしょうか?
これはとんだ錬金術になりますし、こんなことが許されるのかという大きな問題が浮上してくることになりそうです。国も日銀もこうした典型的な債務超過にどう対応するつもりかわかりませんが、「マイナス金利」というのはかなり様々なプロセスで問題をはらんでいることがわかります。
11月の政策決定会合では特段なにも出てこないとは思いますが、外国人の投機筋は例ににって一定の売り仕掛けをしてくることも考えられますので、一応の注意が必要になりそうです。
しかしここのところの「黒田総裁」の国会での答弁や会見を聞いていますと、政策がうまく機能しない理由は夏の天候不順だの株価の下落による負の資産効果だのと悉く外部環境のせいになっていますが、およそ政策の基本的な部分がワークしているようには一切見えない点が非常に気になります。
「ECB」はテーパリングにこぎつけられても日銀についてはまったく出口がないのが実情で、確かに「インフレ」にさえならなければ、効果のほどは別にしても一応まだ仕掛ける手立てはもっているものの、それでもかなり追い詰められてきていることだけは間違いないようです。
「日銀の政策決定会合」にはもはや市場参加者のだれも関心を示さなくなっていますから、為替取引に関してはあまり影響のないものになりつつありますが、11月の会合でそれでも何か動きがでるのかどうかが注目されます。
(この記事を書いた人:今市太郎)