5月5日、 ドイツ憲法裁判所がECBの「量的緩和政策」に関して、「参加国への財政ファイナンスであり、ブンデスバンクは参加すべきでない」と判決したことでユーロドルは一気に100ポイント下落するという動きを見せました。
この判決で、ただちにブンデスバンクが債券購入を行うことが中止されるという動きにはならなさそうですが、ここから3か月以内にその政策の有効性を説明することが求められており、ECBの政策について諸手をあげて加盟国が賛成しているわけではないことが詳らかになった状態です。
メルケル首相もECBができることには限界があることを示しているとコメントし、ドイツ憲法裁判所の判断を支持するような発言をしはじめています。
この裁判所の判断がすぐさまECBの政策に影響を与えるというわけではありませんが、コロナ禍でのECBの対応についても欧州圏が一枚岩ではなくなりつつあることが見え隠れする状況で、為替市場はいち早くそうした動きを嫌気するような相場を示現しはじめています。
国別の保護主義が強まることになるのか
今回の新型コロナの感染に関しても結局の対応は国別になっており、ユーロ圏が一丸となってなにか対応していくという動きは見られていません。
またイタリアにおける極めて厳しい感染が開示されてもユーロ圏として助け合うという動きはほとんどみられませんでした。
結局パンデミックのような危機的な状況が訪れても、対応は国別であることを逆に詳らかにすることになったのは否めません。
ポストコロナのEU圏ということを考えますと、本当にこれまでのような求心力を維持し続けることができるのかがかなり大きな問題になりそうで、ユーロの動きもそれにつられる形になることは間違いなさそうです。
とくに新型コロナに関してEU圏が一致団結してなにかをなしえたということは全くないのも気になるところです。
イタリアに対しても域内で強い団結のもとに救済の手を差し伸べるといった動きがなかったことは、EUの先行きを非常に不安にさせるものとなっています。
結局行きつくところは「自国ファースト」という状況があからさまに露見したことで、これからのEUの理念が本当に継続できるのかという問題も本格的に顕在化しそうな雰囲気になってきています。
このコロナ禍で苦境に立たされている加盟国を支援するためのEUによるコロナ債に関しても、大きな被害を被ったイタリア、スペイン、フランスと比較的軽微な被害でなんとか乗り越えられそうなドイツ、オランダの対立は想像以上に激しいものがあり、またしてもEU内の南北問題が顕在化しつつあります。
英国の離脱が決定したことでこれからのEUが果たしてどのような体制になるのかは非常に注目されるところではあります。
地域間の結束というよりは国家主権を全面に押し出すような動きのほうが強く、下手をすれば新型コロナがきっかけでこの地域統合は大きく後退する可能性も出てきている状況です。
欧州圏は小売り業をはじめとして個人消費に絡むビジネスが日本や米国とともに壊滅的な打撃をうけているだけに、国を超えて人々の暮らしは相当疲弊しそうで、このまま国ごとの格差が広がりますとEUがますます機能しなくなることも危惧されます。
ユーロは幅広いエリアでの実需があることから一気に崩れるといった動きにはなっていませんが、ドルを凌ぐ強い通貨として機能することを期待するのはかなり難しそうで、ドルとの対比で事あるごとに売られることになりそうな状況にもかなり注意が必要になってきています。
ポストコロナの世界を予想するのはまだ足元ではかなり難しい状況ですが、確実に世界が変化しようとしている点だけは常に意識しておくことが必要になってきているようです。