連日、世界的に実態経済が想像を絶するほど悪化しているということをこのコラムでお伝えしていますが、すでにかなり悪いハードデータが登場しても一時的に下落してもすぐに戻ろうとする株式市場の相場には相当な違和感があります。
今が景気の底ならば確かに不景気でも株が上昇するという局面はあるわけですが、これから谷底に突き落とされそうなぐらい状況が悪化しようとしていることをまったく市場が織り込まず、しかも悪い経済指標にも殆ど反応しないというのは相当やりづらい相場になっているといえます。
一体どうしてこういう相場状況になってしまったのでしょうか。それにはいくつかの材料が考えられます。
一番の原因は中央銀行の空前の緩和策がリアルに効いている
気がつくと妙に楽観的な相場状況になるのにはいくつかの背景があると思われますが、まず最大の要因になっているのはFRBをはじめとする中央銀行が市場空前の緩和を繰り広げ始めたことがあげられます。
とくにFRBは3月時点で出せる政策は最初からすべて市場に出してきていますから、当然ダブついた資金が株や債券の市場に投入されるのは当たり前であり、またしてもバブル相場が展開しつつあることがわかります。
本来新型コロナさえなければ驚くべき上昇相場になるのでしょうが、逆にそれがあるからある程度上値が抑えられているという不思議な状況になっていることは間違いありません。
また日銀の3月、4月のETF買いは既に過去最高レベルですから、もはや日経平均は景気とはなんの関係もなく推移し始めていることが改めて確認できる状況です。
中央銀行がなんとかしてくれるという市場の過度な期待
こうしたFRBをはじめとする中央銀行の対応は「相場が大きく下落したら結局中央銀行が何とかしてくれるから心配ない」という、過度な期待を醸成していることも相場が実態経済からどんどん乖離する大きな材料になってしまっているようです。
相場には本来必ず上がったものは下げ、下げたものはまた上げるという自律的な循環があってはじめて成立するものなのです。
しかし、それを無理やり下落だけ止める動きを多くの中央銀行が行い始めているわけですから、下がらない相場は自ずと上昇を期待する向きが増加するのはある意味当たり前の話です。
下落局面ではまた「中央銀行がなんとかしてくれる」という妙な市場の期待を醸成していることは間違いありません。
国内の株式市場では確かに相場が下落すると午後から日銀がETF買いに出ることをと殆どの市場参加者が当たり前のように期待するようになっているのですから、動きが変なのも十分に理解できる状況です。
AIとアルゴリズムの動きも相場をおかしくする要因に
さらに言えばAIやアルゴリズムが先導する相場も状況をさらに悪化させているように見えてなりません。
2月まで米国では新型コロナの材料を全く市場は考慮せず、いうなれば無視し続けたわけですが、イタリアで感染者と死者が爆発的に増加し米国でも感染者が蔓延し始めた途端にAIもアルゴもこれを材料視して大きく相場を売り込むようになっていしましました。
結果AIを駆使して莫大な利益をあげることに長年成功してきた、ルネッサンステクノロジーのようなクォンツファンドでさえ大きな損失を被ることになってしまっています。
さらに新型コロナが大きなテーマになってからも、新しい薬の開発報道がでたり経済再開見通しが飛び出したりすると必要以上にアルゴが反応して買いあがる相場も違和感たっぷりで、不必要な相場の上下動を示現させる大きな原因になりつつあります。
8日にはいよいよ4月の米国雇用統計で前代未聞の最悪の数字が発表されることになりそうですが、果たして市場がどう反応するのかが注目されます。
新型コロナの感染がたとえ収束したとしても実態経済の悪化はここから延々と続く可能性が極めて高いだけに、楽観株式市場がどこでとん挫してリアルな景気にサヤ寄せすることになるのかは相場の大きなか感心事になりそうです。