読み込み中...20日のNYタイムではWTI原油先物の価格が大幅に下落し一時マイナスになるという驚くべき状況が発生しました。
メカニズムを理解できない投資家が大騒ぎしたものの、株も為替もほとんど影響がでないという何とも理解に苦しむような事態が延々と続くことになっています。
まあFXのコラムですから、原油先物のメカニズムを詳細解説してもあまり意味はないのかも知れませんが、この事態から見えてくることは一体何なのかということについては一定の説明をしておきたいと思います。
5月限月ものだけが大きく下落した訳とは
原油の売買というのは金融市場では常に先物で行われているのはご存知かと思いますが、月末にむけて限月が変わる瞬間が発生します。
5月限月ものが6月限月ものに切り替わるタイミングが、ちょうど4月21日ということでこの珍現象が起きているのです。
Data Tradingview
WTI原油先物の期近物は、一時1バレル「マイナス40.32ドル」の安値をつけることとなりました。
これは5月限月ものに限られた価格の暴落で、最終取引日を4月21日に控えた期近の5月物で、現物を引き取りたくない金融市場での投資家が投げを行った結果こうした事態が引き起こされたことになります。
そんなことがあるのかと思われる方も多いと思いますが、実はもはや原油を貯蔵する場所がなくなるほど在庫が市中に出回っており、石油関連企業ですら現物の引き渡し後に保管先の当ても保管料の高騰にも耐えられないと見切ったことから、こうした投げ売り大会で現物引き受けの押し付け合いを行ったことが見えてきます。
一昔前ならば原油は現物こそお宝だったわけですから保管先もないので擦り合いになるというのは全く考えられないことです。
しかし、こうした余剰在庫状況が来月解消するとはとても思えない状況であり、毎月こんなことが起きるのかと・・ぞっとするようなとてつもない展開になっていることがわかります。
瞬間的にマイナスになったものの、足元ではまた価格はもとのレベルを超える形になっていますが、、先物価格がマイナスのまま期日を迎えれば現物の引き渡しでなんと現金がもらえることになるわけですから、いかに保管場所がない状態なのかが推測できます。
世界経済は主要国中心に想像以上に悪化しているということ
ここで気にしなくてはならないのは、確かに期近ものの原油がマイナスに下がったという事実ではありますが、その先に見えてくるのは新型コロナによる景気減速どころか急ブレーキ状態の中で、石油の需要が驚くほど減退してしまっているということです。
米国でいえばこれから夏に向けてのシーズンは車での移動需要も増えることから例年ガソリンはそれなりの需要が見込まれるのです。
しかし、外出禁止、都市封鎖で移動する個人は皆無の状態で驚くほどガソリン需要も落ち込み始めています。
これは米国に限ったことではないですし、日本でももともとの需要は米国よりも少ないとはいえ同様の状況になっていることは間違いありません。
国内ではワンオフ、つまり一回で10万円を払う話題で持ち切りですが、実態経済の悪化の中では小売業で働く労働者の時短や休業による賃金カットは驚くほど広範に広がっているようで、非正規雇用の労働者の労働時間減少、収入減は驚くほどのレベルにまで波及し始めています。
確かに短時間で新型コロナ感染が収束するなら10万円だけもらっても効果はあるのかも知れませんが、これが半年、或いは来年の今頃まで継続した場合を考えますと、個人消費は過去に例を見ないほど落ち込むことが想定されますし、GDPのここからの縮減もかなり厳しいものになるであろうことは明白です。
こんな状況で株だけ大きく値を戻して何食わぬ顔をしているというのはどう考えてもおかしいというのが正直なところです。
中央銀行のかつてないほどの金融緩和だけで相場がもとに戻ると期待するのには、相当な違和感があると考えるべきではないでしょうか。
（この記事を書いた人：今市太郎）
