中国におけるコロナウイルス起因の肺炎の発症者はみるみるうちに増えており、すでに罹患者は中国の発表だけで2091名、そのうち死亡したのが56名という数字でここからさらに等比級数的な増加が予想されはじめています。
武漢のウイルスは中国政府のP4研究所から流出したといった陰謀論も飛び出しており、事実関係は確認のしようもない状況ですが、武漢は完全に町が封鎖された状況で周辺のエリアにも広がりを見せており、物流も人の移動も寸断され、自動車をはじめ工業製品を生産する事業者は完全にサプライチェーンが破壊された状態に陥っています。
日本国内では患者が中国から来日することへの心配とインバウンド消費が大きく落ち込むことが懸念されていますが、実は今回のパンデミックはそれよりはるかに重大な問題が発生しそうな状況になっています。それが中国経済のリセッション入りのリスクです。
2003年と大きく異なる中国自体が一大消費国という状況
2002年11月から始まったSARSの問題は翌年の7月までほぼ8か月に渡って患者が増えることとなり米国S&P500の相場もその間低迷を余儀なくされています。
ただ、17年以上経過した今日では中国は自動車にしてもIT領域にしても世界を席巻する工業生産国になっており、その製造が今回の新型肺炎の問題から大きく支障をきたす状況になれば当然GDPにも影響することになります。
また実質16億人はいるとみられる中国国民の消費が大きく鈍ることになれば中国経済がリセッションに至るリスクはかなり高く、2003年では考えられなかったような景気減速が中国起因でスタートし各国に感染していく危険性がかなり高まっている状況です。
こうなると経済への影響はSARSの時とは比べ物にならなくなるのはほぼ間違いなさそうで、すでにWTIの原油価格は下落を始めており、コモディティの価格も下落が始まっています。
日米欧にリセッションが波及する可能性は極めて高い
日本の場合には昨年の米中通商交渉でもめごとが起きただけでも中国起因の外需が大きく落ち込み成長鈍化の要因となっているわけですが、今回のような中国内での広域的な経済的な封鎖状態からリセッションが起きた場合にはその影響をもろに食らう可能性は相当高そうで株価は日銀が支えてすでに8000円近く下駄を履かせた状態が完全に剥落する危険性も考慮しなくてはならなさそうです。
そうでなくても消費増税で政権や日銀が説明している状況よりはるかに景気は悪化していますから、中国の広範な経済減速は相当なダメージを受けることになりかねません。
こうした問題は米国、欧州も同様で米国はFRBの隠れQEにより株式相場に資金が流れ込み大きく株価を持ち上げている状況ですが、こうした過剰とも思える上昇分は昨年10月からだけでも既にNYダウで1割以上の上げになっていますからこれが剥落してもとに戻る危険性は相当に高そうです。
中国起因のリセッションが世界に波及した場合、主要国の株価が下落するとともに債券価格も下落、金利が上昇することで各国の中央銀行はこれまでのような緩和政策を継続できなくなり、いきなり中央銀行バブルがとん挫するリスクも高くなりそうです。
今回の中国起因のパンデミックによる経済減速はそもそも全く想定されていなかったテールリスクと呼ぶべきものですが、一時的な株価や為替への影響のみならず、本格的なリセッションの引き金を引くことになれば予想をはるかに超える相場の下落をもたらすことになりそうで、金融市場では相当な注意が必要になってきています。
多くの個人投資家は今回の事態を受けた相場の下げは押し目として認識しているようですが、そうではなく相場の長期下落トレンドの始まりである可能性についてもしっかり認識しておく必要があります。
(この記事を書いた人:今市太郎)