年初から米国が仕掛けたイランの革命防衛隊司令官暗殺でいきなり地域を巻き込んだ戦争へ発展することが危惧されましたが、今回は意外ともいえるような形で物理的な戦争状態には突入せずに小康状態を保つ形となっています。
金融市場はステレオタイプな発想でアルゴリズム主体にリスクオフ相場を展開しかかりましたが、簡単に元に戻る動きとなって1月半ばの相場へと進もうとしています。
イランの国内経済は猛烈なインフレに直面しており、産油国でありながら外貨準備率も極めて低く、正直なところ戦争どころではないのが実情のようで、一方米国も11月に大統領選挙を控えそもそも戦争のための資金がない状況、さらに米軍の兵士が大量に戦死するようなことで評価を下げたくないトランプは一撃だけでその後戦争に突き進むことは最初からできない状況があったのであろうと思われます。
ただ米国はこれでイランの封じ込めを終焉させたわけではなく、厳しい経済と金融制裁の実行で国内経済破綻から国民が政府に猛烈な悪感情を抱くことで内部崩壊を目指そうとしていることが強く窺われる状況です。
経済と金融の領域で戦争を仕掛ける米国
ひと昔前であれば産油国で地域紛争が勃発すれば欧米諸国は原油価格が暴騰することできわめて深刻な経済的なダメージを被ることから中東諸国との戦争状態というのは相当策を練ることを要求されたものですが、足もとでは米国のシェールオイルの産出量は実にイランの1.2倍ほどになっており、原油価格の高騰は米国の貿易黒字の拡大にもつながることから、20世紀の対中東戦略とは全くことなる状況になっていることがわかります。
その一方で戦争による経済的な負担を避けるために相手国の経済的な封鎖や金融面で追い詰めていくという手法を全面に押し出すようになっており、イランに対しても米国は金融封鎖や経済的な破綻を目論むことで国民が政府に対して強い不満をもち内部崩壊を起こすような、いわゆる経済金融戦争の領域に入り込もうとしていることがわかります。
これはサイバー領域の戦争とともに20世紀には全く見られなかった手法で21世紀の戦争のあり方というものが大きく変化しようとしていることがよくわかります。
イランの場合、西側諸国に同調して核の保有を諦めるか、逆に核保有を振り回して徹底抗戦するかの2つの選択肢があるようですが、国内情勢を考えると戦時体制を続けるのがかなり難しくなっていることがわかります。
とにかくインフレが収まらないことに加えて原油産出国としてはベネズエラと並ぶような最貧国の状況に陥っていますから国民の反政府運動がさらにエスカレートすれば外側からの攻撃ではなく内部崩壊で完全に今の政権が消滅することは十分にありそうで、米国もその一点に集中した戦略、戦術を展開しようとしていることがわかります。
それでも原油価格の上昇は先進国の株価に影響必至
原油価格が上昇しても別に大した影響がないのが米国の状況ではありますが、株価のほうはそうは問屋が卸さないのが実情で、WTIの原油価格が跳ね上がった場合、債券金利にも影響がでることから株価下落の引き金になりかねず、金融戦争と言っても米株市場ではその動きの変化を常にチェックしていく必要がありそうです。
足もとの米株市場はすでに完全にリスクオン状態に返り咲いていますが、依然として原油価格の高騰は米国の金融市場にも大きな影響を与えることになりそうで、従来からの地政学リスクにおけるリスクオフ、リスクオンとは異なる視点で状況を監視していく必要があるようです。
地政学リスクは従来の状況とはかなり異なるものになってきていることは相当意識しておくことが重要になっているようです。
(この記事を書いた人:今市太郎)