G20 大阪サミットではほとんど目立たなかったトルコのエルドアン大統領でしたが、7月12日に正式にロシアからのミサイルの搬入が始まったことを受けてまたひと悶着ありそうな状況でトルコリラも一旦下落する動きとなっています。
これで米国が正式に追加制裁の実施を明確にした場合にはさらに状況が悪化するのはもはや時間の問題で、ここからのトルコリラの買いは相当気をつけたほうがいい状況になってきています。
NATOのレーダー網となんの親和性もないS400
NATOも相当困惑しているようですが、そもそもNATO軍のレーダー網というのはロシアを仮想的にして作られたものですから西側の軍事機器がワークするようにネットワークも構築されているわけです。
そこに当のロシア製のミサイルS400を持ち込んでも親和性があるわけがないのは当たり前で、ロシア側との緊密感を演出するエルドアンがわざとやっているのはもはや明白な状況といえます。
EUとも距離を置きサウジとも敵対的関係のトルコ
トルコは地理的に欧州と西アジアを陸路で結ぶ要所として古くから機能してきた国ですが、近年ではどちらかといえばEUよりの政策をとってEU入りも時間の問題とみられてきていました。
しかしエルドアンが大統領になってからのここ5年あまりは反欧米の姿勢が非常に強まり、その一方で産油国の力が弱まりつつある中でサウジアラビアとも決して仲のいい状況ではなく、隣国にシリアやイラン、イラクをかかえてかなり微妙な位置にある特別な国になりつつあることが非常に危惧されます。
高スワップ通貨としてはもっとも危険なリラ
スワップを稼ぐ新興国通貨としては南アランドやメキシコペソなどがありますが、これらの発行国は確かに新興国として不安定な部分はあるものの政情不安や地政学リスクを抱えているわけではありませんからトルコリラはきわめて特別な国であることが改めて認識される次第です。
このコラムでは何度も危険信号を発していますが、10万通貨で100円ちょっとのスワップが毎日つくというのはたしかに足元の低金利時代にはそれなりの魅力を感じるものですが、その裏側にあるのははるかにスワップを超えるリスクです。
暴落の直後にでも買いをしかけるならばまだしも、これから問題が起きようかというときにロングポジションを持つ意味は殆ど感じられない状況です。
長くポジションを持てば持つほどリスクに直面しやすいわけですから、よほどトルコに特別な思い入れでもお持ちならば話は別ですが、ここからポジションを保有するのは相当危険です。
デフォルトのリスクも極めて高い
思い返してみますと、トルコリラは過去2年あまりで対ドルで40パーセント以上も値下がりしており、リラ安に歯止めをかけられていない状況にあります。
この国は石油資源国ですから外貨を稼ぐのに非常に苦労しており欧州とも関係が悪化していることから外資の投資を期待するのも相当難しくなっており、つもりに積もった対外支払いの問題がいよいよ顕在化すればいよいよデフォルトリスクが高まることになり、トルコリラが紙くずになる日もそう遠くはない状況です。
トルコは過去にも1982年、1987年に二回デフォルトに陥っており、破綻するのは決して珍しいことではない点もよく認識しておく必要があります。
またトルコリラ円に関していいますと全くもって実需というものが存在しないだけにドル円を買ってさらにドルトルコリラを売る形になっているわけですから、ドル高円高などが襲ってきた場合はひとたまりもないことを理解したおかなくてはなりません。
ここ数年トルコリラを扱う個人投資家が増えて、失業率がどうのとかCPIがどうのといった一般国と同じような経済指標に目が向く向きも多いようですが、この国が抱えている問題はそんなところにはない点をしっかり認識する必要があるのではないでしょうか。
(この記事を書いた人:今市太郎)