7月2日に開催されたEU臨時首脳会議で次期ECB総裁として市場ではほとんどノーマークだったフランスのラガルドIMF専務理事が指名されることとなりました。
ECBで女性総裁が就任されるのははじめてのことですが、ドラギ総裁からラガルド総裁となった時にECBの政策がどのように変化することになるのかが大きな関心事となっており、すでに欧州債は大きく金利を下げる展開が続いています。
そもそもラガルドなる人物とは
クリスティーヌ・マドレーヌ・オデット・ラガルドはフランスの政治家で弁護士でもあります。現在IMFの専務理事であることから金融畑の専門家のように見られますが、実は政治家であり、弁護士でもあるという経歴の持ち主です。
大学卒業後米国のローファームで働いていましたが2005年に政治家に転身し、2007年にからフィヨン内閣で経済・財政産業大臣に就任しています。
テニス好きなのかとにかく真っ黒ですが、これでも安倍総理より年下ということでこのあたりの欧州の人たちの年恰好は見ただけではまったくわからないことがよくわかります。
2011年6月には現在のIMFの専務理事に就任して今回指名を受けるまで職務を継続してきた存在です。
ただ、FRBのパウエル同様経済学位を取得しているわけでもなく、金融の専門家としての経歴もないことからMITで経済学の博士号を取得しゴールドマンサックスでは欧州の副会長も務めてきたマリオドラギとはかなり異なる存在になりそうで、ハト派的性格が強いだけにここからはかなり緩和的な政策を打ち出す可能性が市場で指摘されはじめています。
完全に消えた中央銀行のMIT人脈
ここ10年余り、日本を除く世界の主要国の中央銀行の総裁や要職にある人物は須らくMITの人脈により掌握された時期が続きました。
このMITの人脈形成のコアになっているのがフランコ・モディリアーニという経済学者の存在でライフサイクル仮説やコーポレートファイナンスなどを勉強された方ならモディリアーニ・ミラーの定理・いわゆるMM理論をご存知の方も多いことと思いますが、このモディリアーニはその後ノーベル経済学賞を受賞しMITを中心とした現代金融政策に大きな影響を与えた人物となっています。
MIT学派のつながりモディリアーニは2003年に他界していますが、彼が築き上げたMITでの人脈とその後を受け継ぐ金融関係者は脈々と生き続けその一旦を担ってきたのがFRBのフィッシャー元副議長であったといえます。
フィッシャー元FRB副議長は、MITではモディリアーニの同僚であり、94年から2001年までIMF筆頭副専務理事を務め、イスラエル中銀の総裁という異例のポジションも務めた経済学者出身の先進国中銀総裁のドンというべき存在でした。
モディリアーニ亡き後は完全に全体を掌握する役割を果たし、各国の中央銀行の要人と驚くほど近しい距離にあった人物でした。
フィッシャーは元FRB議長のバーナンキのMIT時代の博士号取得の指導教官であり、長期停滞論で最近話題となっているクリントン政権の財務長官であったローレンス・サマーズもこのフィッシャーの教え子にあたります。
ECB総裁のマリオ・ドラギもMITの出身で、彼はモディリアーニの愛弟子であり、博士号の指導教官はスタンレーフィッシャーであったことからECB総裁就任後FRBとの連携性はかなり強かったわけですが、すでにフィッシャーもドラギもいなくなる状態ですから、これからの米欧の中銀の橋渡しを誰がやるのかにも注目が集まります。
トランプ大統領はドラギを次期FRB議長に迎えたいなどと冗談とも本当ともよくわからない発言をしていますが、ここのところECBに対する非難の発言も多くなってきており、いよいよ為替を巡っては中国のみならずEUとも一戦を構えそうな雰囲気になってきていますから各国中銀の連携性が薄れることはいろいろ問題もありそうで、秋からのECBラガルド体制にもかなりの注目が集まりそうです。
世界的な中銀の緩和競争の再開は当然自国通貨安競争にもなるわけですからここからどうせめぎ合いが展開するか次第では為替の動きも大きく変わりそうで目が離せない状況になりそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎)