このコラムでは何度となくご紹介してきたドイツ銀行の厳しい状況ですが、コメルツ銀行の合併話も結果的にうまくいかず、経営状況は一段と厳しいところにさしかかっているようです。
今のところ明日にも破綻ということはないのでしょうが、7500兆円規模のデリバティブのビジネスを抱える同行にとってはどこかの主要国で問題が起きれば、いきなりその影響を被りかねないだけに景気が大きく後退しないうちに手を打つことが必要であるはずなのですが、実態は悪化の一途をたどっているようです。
ここ1年でみても株価は下げる一方
ドイツ銀行の株価は下げる一方で、ここ1年でみても最安値を更新するような動きになっている点が非常に気になるところです。同行はとにかく異常に膨れ上がりすぎたデリバティブ取引のおかげで何がきっかけで破綻するかわからない状況にあるわけです。
ですが、足元ではNYタイムズがトランプ米大統領の娘婿であるクシュナー上級顧問の事業に関する複数の取引を巡り、2016年と17年にドイツ銀のマネーロンダリングの専門家が連邦当局への報告を薦めたが、同行幹部は受け入れなかったと報じたことからコンプライアンスを巡る疑惑が高まっており、トランプが絡んでいることから市場は大きく嫌気して株価も下げを加速しているようにみえます。
メルケルが首相を辞任できないのもドイツ銀行処理との噂
このドイツ銀行、今のままの状況で放置しておけば必ずはユーロ圏に大きなリスクをもたらすことは間違いないようで、一説によれば党首を辞任しても首相を辞めないメルケルはとにかく2021年までにドイツ銀行を他行と統合するか解体するか何等かの手立てを実行しないことが求められているからであるという話も伝わってきます。
コメルツとの統合がうまくいかない以上、ほかの金融機関との統合をさらに模索するのかデリバティブの部門を切り分けして、利益のでるところだけほかに売却し残りは飛ばし専門の組織を立ち上げてそちらに移管するのか、敗戦処理の方法はまだいろいろと考えられるのかもしれません。
しかし、ドイツ銀行単独で自力更生によってもとに戻ることはすでにできないのではないかといった悲観的な見方も広がっています。
ドイツ銀行については外形的なデータからリスクを語ることはできてもディテールで何が決定的問題なのか、どう切り分け切り捨てできれば生き残れるのかといった具体的な話が一切聞こえてきません。
代わりに出てくるのはマネーロンダリングに絡むようなコンプライアンス違反の話が多く、収益がでないか
らこそ危ない橋を渡るというビジネス習慣が定着化している可能性もあるわけです。
ドイツ銀行はユーロ圏におけるCDSの販売では有名な金融機関ですが、世界の主要国に信用収縮が起きれば必ずその影響を受けることになるのも大きな問題で、リーマンショック後本来は米系銀行が行っていた業務を一手に引き受けてしまったこともリスクを急激に高めることになったものと見られています。
それにしても石橋を叩いても渡らないぐらい慎重なはずのドイツ人の銀行がどうしてここまで危険な状況に追い込まれてしまったのかは大きな問題であり、問題の所在を明確にするためにもより細かな分析が必要になりそうです。
とにかく株価は日々安値を更新中であり、紙くず同然になる一歩手前まで状況が悪化していることは非常に気になります。
リーマンショックの金融危機とは形が大きく異なるだけにどのような形でここから破段階を迎えるのか今一つイメージできないのが実情ですが、危機はかなり近いところまでやってきているように思われ引き続き注意が必要です。
(この記事を書いた人:今市太郎)