ロイターが5月19日に突然報道したグーグルのファーウェイに対する「アンドロイドOSの供給の強制停止とサポートの打ち切り」問題が市場で大きな話題となりはじめています。
これは15日にトランプ大統領が事実上のファーウェイ製品の米国への禁輸措置に署名した動きに連動したもので、トランプ政権との親和性が極めて乏しかったグーグルさえも中国の排除に乗り出している点が非常に注目されるところとなっているのです。
シリコンバレーの米系企業はほぼ民主党支持で共和党との協調関係はほとんどなかったわけですが、いよいよファーウェイの排除に関して政府のやり方を支持するようになりつつあることがグーグルの動きで実証されたわけですから、ほかの米系IT企業がどのように対応していくのかに市場の関心がさらに集まることになりどうです。
単なる貿易紛争の領域を超えている
米国USTRのライトハイザー代表は当初から中国との貿易交渉では構造的問題を解決することが必須の条件であるとしてきました。
しかし、ファーウェイ叩きは90年代の民主党政権時から中国との親和性を高めてやりたい放題を事実上黙認してきたことへの大幅な巻き返しであることは間違いなく、単にトランプの思いつきや気分だけのツイートで事実上の米国内へのファーウェイ製品禁輸を決めたわけではないことが窺われます。
こうなると6月後半のG20大阪サミットの前後にトランプ・習近平の会談が開催されたとしてもすぐに手打ちになるとは到底考えられず、表面的には互いに交渉を継続すると合意しても声明すらでずに物別れに終わるリスクもかなり高まりそうです。
グーグルのこうした動きに米系のIT企業がどのように追随するのかも非常に興味のあるところで、とくに半導体メーカーなどは中国との取引中止で自社の売り上げにも大きな影響がでるだけにどう対応するのかが注目されます。
ITの領域で知的財産権の侵害の問題やファーウェイを通じたスパイ活動などの問題が徹底的に顕在化した場合、通商協議と一定の合意だけでは解決がつかなくなることは間違いない状況で、見かけは貿易交渉ですがすでにIT領域を含めた全面っ経済戦争が勃発していると考えるべきなのではないでしょうか。
またトランプとか共和党とかいった枠組みではなく米国が一体となって対中姿勢を強め始めている点もしっかり認識しておく必要がありそうです。
やはり5G をはじめとする次世代のIT技術が大きく経済をリードする社会で今のまま中国をのさばらせておくわけにはいかないという強い危機感が全米レベルで感じられます。
米中の応酬で周辺国はとんだとばっちりという見方もありますが、すでに形を変えた戦争と認識すればそんな甘いことは言っていられないともいえるわけです。
米国関税への対抗策は中国による米国債売り恫喝攻撃か
このままでいけば6月末に米国がすべての中国製品に最大25%の関税を賦課する可能性は極めて高くなりそうで、貿易額的に米国に対抗しえない中国がどこかで保有米国債を売却する意向をみせたり新規の米国債購入を公然と見送る可能性はかなり高くなってきているようです。
さすがにいきなり国債売り浴びせとはならないでしょうが、行き詰まればやりかねないところまで状況は悪化しつつあることは間違いなく、このままでいくと結局のところ貿易交渉自体はなんら合意に至らずに、最終的に米国が中国に対してなんらかの為替合意を求めて21世紀版のプラザ合意2.0のような決着のつき方をすることも十分にありうる状況になってきています。
こうなると多少耳障りがいいニュースがでればアルゴリズムが買い上げる相場が起きますが、確実に戻り売りを実行すべき時間帯であり、決して安易な合意がはかられることを期待するのには無理があるようです。
(この記事を書いた人:今市太郎)