国内でFX取引をされている個人投資家にとってもっとも遠い存在で今一つピンとこないのが米国の社債市場の問題です。
国債市場ならまだしも社債の市場がFXと何の関係があるのかと思われる方も多いと思いますが、新債券の帝王の異名をもつジェフリーガンドラックをはじめとして多くの著名投資家が米国の社債市場のリスクを声高に指摘し始めており、もはや見て見ぬふりをしてはいられなくなっているのが実情です。
社債の格付けは静かに下落しつつある
リーマンショックから今年ですでに10年半が経過しましたが、この10年米国ではジャンク債一歩手前のBBB格債の割合は大きく増加しています。
BIS・国際決済銀行のレポートでは欧米では2010年に20%だったBBB格債の割合が2018年には45%にまで拡大しており、ブルームバーグの米国投資適格社債インデックスでは既に2018年末で50%に達する勢いでの拡大が確認されています。
恐らく足元ではさらに高まっていることが容易に予想される状況です。このBBB級というのはファンドなどが保有できるいわば最低水準の債券で、経済状況が悪化してくるとこのBBB格債券のほとんどがいきなりBB級、つまりハイイールド級に格下げを食らう可能性がきわめて高くなってしまいます。
米国の市場ではこうした投機的格付けに格下げされてしまった企業のことをフォーリン・エンジェル、日本語では堕天使と呼んでいますが、このBBB格債は米国市場だけでもすでに2.5兆ドル、日本円にして275兆円にまで膨らんでおり、リスクが急激に顕在化しつつあるCLO市場の1兆ドル、日本円にして112兆円市場の2.5倍もの規模を誇るようになっている点が非常に危惧されるところです。
足元では国債金利の低下で目立たない存在だが確実にBBB格の社債の格付けは下落し始めており、万が一金利が再上昇になった場合には社債の格付けがさらに下がり市場に大きなリスクが発生することになるのです。
自社株買いと連動する社債発行
この10年米系企業の自社株買いこそが米株市場の上昇をけん引してきており、日本円にして年間47兆円平均の企業の自社株買いこそが米株上昇の理由であることはこのコラムでもご紹介してきていますが、(https://fx-works.jp/c1_20190419/)米国企業の社債発行が自社株買いと連動した動きであることは紛れもない事実です。
となると問題は株価との整合性になりますが、株価が上昇しているうちは両建てで借金をして資産を増やす形になりますが、万が一株価が大きく下げ、しかも金利だけ上昇すれば借金だけが膨大に膨れ上がり、しかも返済に窮する企業も続出するはずでこの膨大に膨れ上がった社債市場は米国金融市場の大きなグレーリノになりつつあることがわかります。
ここからこの米国の社債市場にどのような形で問題が顕在化するかははっきりよくわかりませんが、市場規模が大きいことに加え、参加者が一斉に売りに転じた場合驚くほど早くマーケットが破綻するリスクが伴うだけにここからの相場では目が離せない状況です。
とくに邦銀がイールドハンティングでこの市場に深く参入してしまっており、その動向が相場を左右しかねないだけに国内市場にも一脈通じる問題となっていることも理解しておく必要がありそうです。
過ぎたるは及ばざるがごとしと言いますが、過度な自社株買いとそれを意識した社債による資金調達が岐路に立たされていることはどうやら間違いないようで、このどこかが崩れだすと信用収縮が一気に市場に広がる危険性がありそうです。
今年の相場ではもっとも注視すべき材料になってきていることはどうやら間違いなさそうな雰囲気です。
(この記事を書いた人:今市太郎)