足元の市場ではみずほFGが6800億円という巨額の損失を計上することがわかって本邦の金融機関の株価にも大きな影響を与えることになったわけですが、それとは別にこのコラムでも2月の頭にご紹介した邦銀のCLOの大量保有の問題がかなりきな臭い状況になってきているのが気になります。
国内ではほとんど話題にならなかったCLO市場の問題ですが、2月末になって金融庁も動いていたことが発覚しかなり注目を浴びるようになっているのです。
日銀も年明けに調査に乗り出していた
今年1月、CLO市場が結構危ないのではないかと騒がれだした時点でなんと金融庁がMUFGなど3メガバンクや農林中央金庫など大手7銀行グループに対し、CLO投資に関する一斉調査を実施していたことが明らかになり、市場の大きな注目を浴びています。
今回の検査ではCLO投資残高が非常に多いとされる農林中金に加え、ゆうちょ銀行、MUFGに対して重点的な調査が実施されたとされており、金融庁も見かけ上格付けは高いが中身は単なるジャンク債であることが明確なCLOへのバイアス投資を行っている金融機関の状況を非常に憂慮していることがよくわかります。
77.4兆円規模のCLO市場規模を支える邦銀の投資
世界のCLO市場規模はほぼ日本円にして77兆3500億円程度とみられますがそのうち農林中金は2018年12月末現在で6兆8200憶円強を保有しており、さらに昨年10~12月期にわざわざ100憶ドルも買い増している状況にあります。
米国系金融機関もイールド確保のためにそれなりにCLO資産を保有しているとは見られていますが、農林中金の保有額はすでにJPモルガンやウエルズファーゴを優に上回っており、CLO市場での農林中金の買いが市場全体を支えているという極めて重要な存在になりつつあるようです。
本邦銀行勢ではMUFGが日本円にして2兆5000億円、ゆうちょ銀行が1兆63億円と続いており、ゆうちょは昨年4月以降保有量を2倍に増加させるという積極策に出ています。
この3グループともにトリプルAの最上位の格付け商品だけを保有しているとされていますが、2007年のサブプライムローン発覚時点でも適格債だけを保有しているとされた金融機関が実はジャンク債の組み合わせによる偽装格付け商品であったことに騙されて大損しているわけですから、CLOも相当危ない商品であることがわかります。
今後の状況次第では相場暴落の火種に
年明けにFRBが180度宗旨替えしてQTを中断、利上げも当面見送る姿勢を鮮明にしたことから債券市場では年内に利下げさえもあるのではといった勝手な期待からどうみてもジャンク債にしか見えないCLOのような市場にも資金が戻りつつあるようです。
しかし、問題は日本の金融機関が積極的に買っているからアウトパフォームがでるだけでひとたび売りがではじめて、メジャープレーヤーである農林中金などが売りに転じるとその動き自体が相場を大きく下落させる要因になりかねないことで、ジャンク債市場は流動性パニックがおきやすいのが気になります。
CLOのもとは銀行が貸し出しているレバレッジドローンですから、このあたりがおかしくなると貸しての銀行やプライベートエクイティファンドが多額の不良債権を抱えることになりますし、CLO投資家は莫大な損失を被ることになり、これがきっかけとなってあらゆる資本市場で売りが売りを呼ぶことで世界同時株安・債券安が簡単に示現してしまうリスクがかなり高いことは相当意識しておく必要がありそうです。
為替市場の世界からはもっとも遠いように感じるCLO市場ですが、実は背中あわせにつながっていることを忘れてはならない状況です。
(この記事を書いた人:今市太郎)