米株が年末から大きく戻したことから市場には2019年バブル崩壊や2020年景気後退といった悲観論を大きく否定する強気論が妙に台頭しはじめています。
金融市場と向き合う銀行の投資銀行部門やヘッジファンドなどの資産運用会社の対応には、かなり変化がみられるようになってきており、やはり楽観論一点張りとはいかない状況が差し迫ってきているようです。
人員削減はかなりの勢いで進行中
年末から年明けにかけてかなりの金融機関がこれまで利益確保のドル箱となってきたはずのいわゆる投資銀行部門の人員削減に乗り出しています。
もともと銀行というのは景気がいいときこそリストラをやるというなかなか異質な存在ではありますが、去年末から今年にかけての人員カットは投資部門に集中している状況になっているのが大きな特徴といえます。
まずゴールドマンサックスは関係者の話として債券のトレーディング事業に割り当てていた資本を削減する計画を検討していると言われます。
おそらくこれが実行されれば応分の人員も削減の対象になるものと思われます。もともと債券部門といえば投資銀行部門の中では花形の職種で市場規模も非常に大きいのですが、業界主力のゴールドマンがこの市場から腰が引けているというのはかなりショックな内容といえます。
HSBCはグローバルマーケット部門で少なくとも50人を削減、BNPパリバは自己勘定取引部門を閉鎖、ソシエテジェネラルも閉鎖を検討といった具合に投資銀行部門の自己売買もどんどん縮小や閉鎖が現実のものになろうとしています。
一方ヘッジファンド業界も非常に利益が出にくくなっており、ブリッジウォーターとルネッサンステクノロジーの2社がダントツに収益を上げている以外は、非常に収益性が下落する傾向にあり多くのファンドが閉鎖等に追い込まれ始めているのです。
閉鎖となれば当然全員リストラですから状況は銀行よりもさらに厳しさを増していることがわかります。
なぜ金融機関は投資部門の人員削減をするのか?
こうしてみますとなぜ今投資部門の人材を各社が大きくリストラしようとしているのかの疑問が湧いてくることになります。
AIが売買の主流になって人が必要なくなったというのがここ数年の回答といえるものでしたが、実はよくよくその状況を精査してみますと、市場のボラティリティが大きくなりすぎてアクティブな投資を行っても全く儲からない時代になってしまったというのが正直なところでしょう。
上述のブリッジウォーターもルネッサンステクノロジーもAIとコンピュータを駆使した売買を手掛ける主要なファンドですが、こうしたところと同じようにリスクパリティ戦略をとっても多くのファンドは全く儲けを出せない状況です。
また、人の取引を大幅に排除してクォンツを排してコンピュータ取引をしているところでも利益は毎年上げたり下げたりのランダム状態で、決してAIに任せたら儲かるというものではないことも明確になってきているようです。
1月米株相場はかなり戻る形となったことはご案内の通りですが、その陰で米株ETFは1月過去最高となる250億ドル(約2兆7500億円)が流出しており、ヘッジファンド勢は積極的な米株投資にきわめて消極的な姿勢であることが垣間見られます。
また数字は明確に発表されていませんが、米系銀行を中心としてプライベートバンキングからかなりの資金が解約・流出するようになっているようで、富裕層もファーストアウトで相場の様子を見始めていることがわかります。
この相場上げが再スタートしているのか下落の戻り局面なのかはまだはっきりしませんが、市場状況に精通している参加者ほど腰が引け始めているという点はかなり注意していくことが必要になりそうです。
大地震の前にナマズが騒いだとか、鳥が泣きわめいたなどという話をよく聞きますが、相場の暴落局面ではこのような状況変化がなにかを示唆している可能性がありそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎)