米通商代表部・USTRは昨年月21日、日本との貿易協定交渉の交渉目的を公表しており、米国の政府機関閉鎖で多少遅れがでているようですが、1月末よりいよいよ具体的な交渉が開始される予定となっています。
その中身は日本政府が事前に示していた内容と大きく異なり、物品の関税引き下げ・撤廃のみならず、自国に有利な通貨安誘導防止、通関手続き緩和など非関税障壁分野22項目を交渉対象とすることが明らかになっております。
今後交渉が進展する過程でこの協定の中身はTAGではなくFTAであることが改めてバレてしまいそうな状況になってきています。
為替取引の視点でこの協定を眺めた場合もっとも注目されるのが米国がしきりと迫っている為替状況を入れることになるかどうかの問題です。
協定内の為替条項の設定はもはや避けて通れないものか
今回の交渉では米国側から貿易赤字ゼロを目指した追及がはじまり、自動車輸出では台数や金額ベースでの制限を強要され、それでもうまくいかなければ最終的に為替について具体的な水準の変更を強要されるような形で話が進むことになりそうです。
どのタイミングで為替の話が飛び出すかは判りませんが、早ければ桜が咲く前には政治的にドル円は円高方向に押し戻さざるをえない展開が待ち受けているものと思われます。
年初突発的ではありますが、104円台までやっているドル円ですから、こうした交渉で1円~2円の下落を米国側が求めてくるはずはなく、具体的に協定に為替水準が盛り込まれないとしても100円以下を要求されるのはほぼ間違いないのではないかと思われます。
交渉の窓口責任者はライトハイザー
今回の交渉にあたる「ライトハイザー」は韓国とのFTAでもその締結に責任をもった人物であり、カナダやメキシコとも交渉を行っておりトランプからは絶大な信頼を得ているとのことですから相当厳しい内容を突きつけられるであろうことはほぼ間違いない状況といえます。
米国は中国と為替の交渉をする際にも各国との為替条項が締結されているが非常に重要であるとしていますから、日本だけが除外される可能性はかなり少なそうで、結果的にこの条項の適用で第二のプラザ合意のような方向に米国がリードしていくことも考えられ、為替相場にとってはかなりクリティカルな協定になりそうです。
実質実効為替レートでは10%以上円安か
円高か円安かという判断を下す場合に利用するのが「実質実効為替レート」でこの実効為替レートとは特定の2通貨間の為替レートではなく、多くの通貨に対して円高なのか、円安なのかを判断していくもので実質実効レートと言った場合には物価の変動率も考慮されることになります。
このレートで算定して場合円はドルに対して15%以上安いと言われても仕方ない状況ですから、110円の水準ならばどう考えても100円以下を要求されることが予想され、ここからはかなりの円高を維持していくことが日本政府にも求められることになりそうです。
さすがに為替介入で円高にはできないでしょうが、日銀が長期国債レートをいじれば比較的簡単に円高に動くだけにかなり具体的に米国から要求を受けることも考えられ、この交渉が進めばドル円は自ずとドル安円高にならざるを得ないリスクが高まりそうです。
安倍政権は外交の安倍などとも呼ばれていますが、結局ロシアとも北方領土返還の交渉は全くうまくいっていませんし、北朝鮮とも直接対話ができているわけでもなく、米国とはトランプ安倍の距離が近いとはいいながら、何でも言うことを聞かざるを得ないのが実情ですから、今回のこの貿易協定の締結が進む段階でドル円の円高もかなり明確になってくることが予想されます。
考えてみればドル円はプラザ合意以降つねに政治で動かされてきている通貨ペアですからこうした米国からの圧力は結局現実のものとなるのではないでしょうか。
(この記事を書いた人:今市太郎)