今年正月明けに宝島社がいきなり主要全国紙に打った全面広告が話題になりました。
企業広告としてはかなりユニークなこの内容には同社の社会に対する危機感が強く表れています。連日メディアを賑わしている隠蔽、陰謀、収賄、改ざんの事件など、気がつくと、世界中に嘘が蔓延しております。
それを伝えるニュースでさえ、フェイクニュースが飛び交い、何が真実なのか見えにくい時代になってしまったことに強い危機感を指摘する内容で、人々は、次から次に出てくる嘘に慣れてしまい、怒ることを忘れているようにも見えるとたこの広告は指摘しています。
嘘が蔓延している今の世界に対して、嘘についてあらためて考え、そして、嘘に立ち向かってほしいと訴えかけているのが非常に印象的でした。
しかし今月、この嘘という問題が金融市場にも大きな影響を及ぼしかねない事案が次々と顕在化しはじめており、我々も本格的に向き合わなくてはならなくなっていることを強く感じます。
国際的にドン引きの国家統計改ざん
昨年春先ごろから厚生省の開示する毎月均等統計の調査方法を修正した結果、突然0.6%から0.7%賃金が上昇したことが発表され、まるでアベノミクスの功績のように内閣は自負する結果となったのですが、日銀をはじめ各機関のエコノミストからはかなり疑問の声が高まりを見せました。
しかし、麻生財務大臣は個人の感覚の問題と一蹴していました。ところがこの統計は2004年ごろからでたらめの調査を行っていたことが発覚し、国が開示する国家統計の信ぴょう性に大きな疑義が生じ始めているのです。
通常高度に成熟した先進国ではこのような稚拙な調査が長々と継続することはあり得ない状況です。菅官房長官は基幹56統計についても再調査を実施することを決定したとしていますが、これがそこら中で間違っていたりしたことが発覚した場合、金融市場では日本への海外投資家の投資活動を著しく阻害するリスクが高まりを見せています。
そもそも数字を適当に、ねつ造してきた泥棒のような存在の役人が自ら再調査して間違いを見つけ出せるのかという大きな問題もありますが、たとえばGDPや個人消費など国の経済指標の根底を担う数値に変更があった場合にはかなり致命的な状況に陥ることも考えられ、事態は想像以上にクリティカルになろうとしています。
このコラムでは再三「アベノミクス」と呼ばれるものの実態は日銀が行う金融抑圧による金利低下策が基本で、ETFによる株買いと円安誘導はおまけに過ぎず根本的に経済を活性化させる政策ではないことをお伝えしてきました。
ここへきて「アベノミクス」のおかげとされてきた、統計数値の向上がいきなり剥落するリスクも出てきており、予断を許さなくなってきています。
今更東京五輪中止による経済損失規模はどの位?
また時を同じくしてフランスから飛び出してきた東京五輪招致に関する贈収賄疑惑で、フランス捜査当局が日本オリンピック委員会の竹田恒和会長を贈賄の容疑者とする捜査開始との報道が登場して、俄かに東京五輪開催中止の可能性が出始めています。
この時期に贈収賄事件化するということは当然開催前に何等かの決着がつくことになるはずで、あえなく東京五輪開催中止でロンドン代替え開催も十分にありうる状況となってきました。
こちらのほうは足元では32兆円規模などという荒唐無稽の経済効果が語られていますが、2012年段階では3兆円規模であり、F35戦闘機を100機購入するのをやめれば簡単に穴埋めできそうな状況です。
ただし五輪がらみで不動産価格の上昇が見込まれていた首都圏はスルガ銀行のアパート不正融資の問題から、最近では不動産に絡む金融機関の融資が驚くほど厳しくなっております。
すでに換金を急ぐ土地保有者がかなり二束三文で不動産を売却することから東京五輪の影響などほとんど示現しなくなるという厳しい状況で開催してもしなくてもたいした経済効果にはならなさそうな雰囲気になってきています。
本件に関しては実施見送りという現実よりも贈収賄で五輪の誘致に成功したという不正イメージによる国の信頼毀損の問題が大きくなりそうで、いずれにしてもマイナスに働くことしかないのが現状です。
今の政権は嘘による深刻な経済損失をよく理解していない
国内では「モリカケ問題」でなんとか疑惑を振り切ったことから、状態的に総理大臣が嘘をつく世界が当たりまえにようになっていますが、内容によっては国の信頼を大きく失墜させるきっかけになりかねず、とくに金融市場では海外勢の日本や日本株への投資を大きく阻害する深刻な材料になりかねない状況です。
今のところ国家統計に関しては厚生労働省の毎月勤労統計だけが問題になっていますが、ここからの動き次第では相当な影響がでることを認識して我々も投資に向き合う必要がありそうです。
とくに国際社会からの厳しい目は大きな損失をもたらすことになるのは間違いない状況です。いつからこんな国になってしまったのでしょうか。
(この記事を書いた人:今市太郎)