金融相場というのは、いかなる商品であっても基本的に「最も安いところで買って最高値に近いところで売る」、もしくは「最高値で売って最も安い値のところで買い戻す」のが一番儲かる手法であることは誰でも知っていることです。
しかし、この売買法はその本質をよく理解しませんと似たようなことをしてもまったく似て非なる結果を生み出してしまうことがあるので、しっかりとその本質を認識することがきわめて重要になります。
そもそもドルコスト平均法とは
ドルコスト平均法は「dollar cost averaging」の日本語訳で、まさにそのまま日本語訳された名称が使われています。これは株式や投資信託などへの投資手法の一つとして生まれたもので、もっと簡単な日本語の言葉でいえば「定額購入法」ということができます。
ある金融商品を購入する場合に相場の変動を加味して一度に一括で購入せずに、資金を最初から分割して1年間12回などにわけて毎月同じ金額を購入し1年後にすべての購入を完了させるといった方法になります。
相場というのは循環し、高値をつけた相場は必ずどこかで安値をつけて循環するのが基本的な動きとなるわけです。最安値や最高値を見極めることは難しいことから、リスクを分散させて毎月同じ額を購入することで高い時期には購入量を減らし、低い時期には購入量を増やす形で平均化を図っていくというのが基本的なコンセプトになります。
ちなみになぜドルコスト平均法と呼ぶかですが、英国では「Pound-Cost Averaging」と呼ぶそうで、ここでは米ドルのことではなくあくまで資金のことをドルと呼んで資金コスト平均を表す言葉と理解するのが正しいようです。
日本語に訳すときにそのままドルを残してしまったので、米ドルと関係があるかのような錯覚を起こし勝ちですが、ここでは「資金」と読み替えると理解し易くなります。
ドルコスト平均法がワークする相場
実際にドルコスト平均法を利用しようとした場合、対象となる市場、商品の相場状況によってそれが非常にうまくワークする場合とまったくダメな場合が存在することがわかります。
まずはうまく機能する相場のついて考えてみたいと思います。
上下に一定のレンジを形成するような相場
相場がこのグラフのように一定期間に上に行ったり下にいったりするようなレンジを形成する場合、しかもこの相場に投資して得られるのが配当であったりする場合には、ドルコスト平均法はかなりうまく機能すると言えます。
毎月同額を購入すれば相場が高い時には少ないボリュームを買い付けることになりますし、逆に低い時には量をたくさん購入することができて、平均コストを下げることに寄与することになるというわけです。
ただし、FXにおけるスワップポイント狙いはかなり微妙で、相場がこの売買法にマッチしていない場合には当座は上手くいっているように見えても、その先とんでもないことが起きる可能性がある点には相当注意が必要となります。
下落から再上昇するような相場にもマッチ
この手法は、下落から再度上昇するような大きなレンジの相場状況でもしっかりワークすることになります。
ポイントは下落した後再度上昇することで、一方向にトレンドがでても相場の循環としてまた元に戻るような動きをする商品の場合には、確実に一定金額購入が機能を発揮することになるというわけです。
こうしたチャートを見ていますと、どんな相場にも利用できそうな気になってきますが、実は全くワークしないケースも多く存在することになります。
またここでご紹介しているチャートは、あくまで結果としてこうなっているわけですから投資の途上では全体像がわからないことも多く、実は結果としてマッチしない相場になってしまったというケースもあり得ます。
ドルコスト平均法で損する相場
上昇から反転下落して相場がさらに下値を追うようなケース
逆に損失になるケースは、まず相場が上昇したあと反転下落し、明確な下落トレンドがでてしまうようなケースです。
これは上昇から下落するところ辺りまでは確かに定額購入がワークしているように見えますが、その後相場がどんどん下がり続けると、結局ナンピンをしているのと同じで、コストは毎回買うごとに悪くなるという最悪のパターンに陥ってしまいます。
この場合にはドルコスト平均法は成立しなくなるのです。こうしたケースでドルコスト平均法を実施した場合には、トレーダー自らの判断で一旦中止にするといった厳しい投資行動が必要となるのです。
最初から明確な下落トレンドになっている相場
ひとつ目の事例を見ればすぐにお分かりいただけると思いますが、最初から下落トレンドが出ているようなケースは平均法ではなく単なるナンピンの繰り返しになるだけです。
累積的に損失が膨らむことになり、仮になにかのインカムゲインが得られるとしてもキャピタルロスの方が間違いなく大きくなって、損益上ではなんらメリットが得られなくなるケースとなってしまいます。
上昇トレンドが明確なときは最初にまとめて買ったほうが儲かる
下落トレンドとは逆さまに上昇トレンドが最初から明確に出ている相場の場合には、時間をかけて少しずつ購入するよりは最初の低価格時に一気に購入して保有していた方が結局大きな利益を確保することができます。
もちろん上昇局面で買い足しを行えば損失を被ることにはなりませんから、完全に意味がないとは言えませんが、本来のドルコスト平均法のベネフィットを利用した売買法とは言えない状況です。
もちろん外貨預金のように毎月の給料から月掛けで買い足していくといったこともありますので、最初から一括で資金を投入できないというケースもあるとは思います。しかし決して「得な方法でない」ことだけはあらかじめ理解しておくことが必要でしょう。
相場の変化に合わせて中止や売却を考えることが必要
こうしたチャート形状というのは、後から見ているわけですから、「ああそうか。」と理解し易いものになっているのですが、投資の途上ではすべてが理解できないままに状況が変化することも当然あるのです。
したがって例えば、下落から反転上昇すると想定していたのに相場は一方的に下がるだけという局面に遭遇した場合には投資を中断する、損切りをするといった判断を迫られることになるのは言うまでもありません。
いくら毎月定額を買うと決めたのだからと言ってみても、相場自体がそれにマッチしない動きになる場合には「潔くやめる」という勇気も必要になってくるのです。
また状況の変化のなかで、一気に売却したり買戻しをしたりして利益が最大化し逆に減少局面に陥る前に決済するという発想も必要になってくるのです。
日本人は異常とも思えるほど月ごとの利益や配当を受け取ることに喜びを感じる国民のようですが、一度決めた定額取引も機能しなくなったら「さっさとやめる」という判断を迫られるものであることは理解しておくべきでしょう。
トルコリラ円は完全に損する相場形態
ドルコスト平均法の話をすると、多くの人が思い浮かべるのがトルコリラ円のスワップ狙いのロングの取引法ではないかと思います。
※トルコリラ円月足
※トルコリラ円週足
上記の二つのチャートはトルコリラ円の月足と週足を示したものです。
期間は月足のほうが断然長くなり、ここ8年間ぐらいを示していますが、ミクロ的には多少の上下は見られるものの、マクロで見た場合には月足でも日足でも一貫して下落トレンドが出ていることが明確にわかります。
しかもそのトレンドは「ここ8年近く一度として反転したことがなく」とにかくトルコリラ円は長期にわたって下落トレンドの中にあったことがわかります。
国内ではここ20年あまり、預金にまともな金利がついたことがありませんから、15%以上のスワップがつくというのは非常に魅力的で、努力をしなくても一定の金利が付与されるというのはFX投資家にとっては始めたくなるようなスキームであったといえます。
しかし実態は一貫して下落トレンドを続けていましたから、この通貨ペアでドルコスト平均法を行っても結局のところ長期間にわたって無理なナンピンを繰り返しただけというのが実際の投資であったことがわかります。
しかも足元では金利によるインカムゲインを価格の下落によるキャピタルロスが大幅に上回ってしまったわけですから、特に2015年以降はどこで買っても儲かった人は誰もいないという厳しい状況に陥ってしまっているのです。
投資をしているご本人たちはすっかり「ドルコスト平均法」に基づいてやっていると思いこまれていたわけですが、実態はもともとワークしない相場に入りこんでいたことが改めて確認できる次第です。
ドルコスト平均法で成功するためには
ドルコスト平均法を利用して投資を成功させるためには、まず投資商品の相場の特性と実際の相場状況をしっかりと調べ、循環型の相場になっているのか上昇トレンド、あるいは下降トレンドがでていないかをしっかりと把握することが重要になります。
配当やスワップといったものを獲得するのであれば、循環型の相場で常に一定金額を購入することは価格の平均値を下げることになり、リスクの低減に役立つことになりますが、下落トレンドにある商品の場合にはこの手法が最初からワークしないことをよく考えていく必要があります。
実際にワークするのは「ETF」であったり「変額保険」であったりと緩やかではあるものと右肩上がりの成長が実現できるものに向いているということができそうです。
逆にほとんどワークしないのが、株の特定銘柄やFX、貴金属などのコモディティで、たしかに循環するとはいうものの、大きく下げる局面では過去1年の価格上の利益をすべて吐き出しかねないことが多いことからほとんどうまくいかないのが実情です。
やはり株なら大暴落して誰も手が出ないときに悠々と買いつけて、次の上昇までじっくり時間をかけて保有するのが間違いありませんし、FXでキャピタルゲインを得るならば「安いところで買って高いところで売る」あるいはその逆で「高いところで売って安いところで買う」のに勝るものはない状況です。
スワップ狙いというのは非常にその投資家の気持ちはよくわかるものの、高金利通貨にはそれなりのリスクが伴っているこということは今回のトルコリラの暴落で多くの投資家が改めて認識されたはずです。
果たしてそのリスクを冒してまで、インカムゲインに入れ込む必要があるのかどうかはしっかりと判断する必要があると思われます。
とくに通貨ペアの相場はたしかに主要通貨では循環型の相場を形成することも多くなりますが、少なくともトルコリラに関しては対ドルでも対円でも長期のトレンドが一回たりとも転換したことがないという点はよく考えなくてはなりません。
さらに史上最安値を更新した場合には、下値というのは値ごろ感から見ても全く正しくないことが多く、自らの独善的な判断で売買をしてもまったくうまくいかないというリスクが内在していることもしっかり認識しなくてはなりません。
トルコリラ円の売買に一体誰が「ドルコスト平均法」などを持ち出してきたのかはわかりませんが、もっとも適用してはいけない取引に利用してしまった最悪のケースとなってしまってのではないでしょうか。
これはほかの高金利通貨でも似たようなことが言えるところがあり、南アランドやメキシコペソなどもかなり注意していく必要がありそうです。