いよいよ「ジャクソンホール」で開催されるカンザスシティー連銀主催の年次シンポジウムに「黒田総裁が出席しない」ことが明らかになりました。
もともとこのシンポジウムは招待状が来ない人物は出席したくてもできないわけですが、日欧の中央銀行は米国に成り代わって緩和を継続しているわけですから、真っ先に招待される存在ですが、今年はどうやら「出席できない事情」がおありのようでぎりぎりになって登場しないことがわかったというわけです。
細かく突っ込まれると困る事ばかりの日銀の政策
このコラムでは日銀がこれまでにない「量的・質的緩和措置」に関しては、表向きの大義名分とは別に、金融抑圧により金利を上げないという大きな目標が存在することは何度となくご説明してきました。
この金融抑圧とは平たく言えば、物価の上昇よりも低く金利を抑えることにより、実質的に国が保有する莫大な債券の価値を減らしている借金減額政策の一環であり、外向きには2%の物価目標達成を打ち出していますが、実はいつまで経っても達成しないが故に大きな成果をもたらしているものと言えるのです。
実際に政策開始から既に4年半近くが経過しても一向に達成の成果が見られず、一部のメディアには「日銀政策は失敗なのではないか」といった指摘が出始めていますが、実は政権と財務省からは絶賛された国の債務減額政策になっているのです。
株価の上昇と円安というオペレーションがついているので、その部分だけ「アベノミクス」などというまやかしのネーミングをつけていますが、元々1100兆円もある「債券金利」を「超低金利政策」でほとんど支払いを行わないままに過ごしてきており、実質的な財政ファイナンスやヘリコプターマネーに近いことをやらかしているのですから、安倍政権にとっては実に心地よい政策オペレーターであることは間違いありません。
これはインフレが起こらないからこそ実行できているもので、ある意味デフレの出口にはいても、本格的なインフレにならないことが黒田総裁にとっては都合のいい状況になっているといえるのです。
したがって国債の買い入れもステルス的に減らしていますし、ETFの買い入れも日経平均からTOPIXへなどと煙に巻いたような政策を打ち出していますが、足元の状況は日銀にとっての「ゴルディロックス状態」であることは間違いなさそうです。
しかしこの本当のことを欧米のメディアから聴かれても語るわけにはいかず、米欧の中銀がいよいよ緩和から出口に向かっている局面で、日銀の政策をあれやこれや聞かれるのは非常に具合の悪い状況になりつつあることがよくわかります。
もともと足元の金融抑圧政策に出口など用意されていない
日銀の政策についても出口をどうするのかという議論が結構あちこちで聞かれるようになっていますが、この裏メニューとなっている金融抑圧政策には出口など最初から用意されてはいません。
とにかく行きつくところまで行くしかないのが正直なところでしょうが、そんなことは口が裂けてもメディアには語れないのが実情でしょう。
日本の忖度メディアの前でのらりくらり訳の分からない説明は記者会見できても、ジャクソンホールなどにでてきて演説をぶつことができるような状況にはなくなったというのが正直な状況ではないでしょうか。
これは国内のシンクタンクなどでも言われ始めていることですが、日本の政策金利が4%を超えるようになれば、単純計算しても年間で40兆円以上の金利負担をすることになるわけですから、いくら消費税を上げてもまったく追いつかない厳しい状況になってしまうのです。
そのためにも、とにかく利払いを最小限に抑える政策は延々とやらざるをえず、これが破綻したときには逆に「ハイパーインフレ」を起こして国の借金だけは大きく減らせる別の政策を考えなくてはならないというのが正直なところではないかと思います。
こうした日銀の政策に多少色を付けたものを「アベノミクス」などと呼んでいるわけですから、一般的な経済政策として国が成長するとか発展するといった成果が出ないのは当たり前ともいえる状況です。
しかし国債の買い入れも2021年位までは続けられても、その後の継続は不能になるのではないかと言う見方も出始めています。「行けるところまで行く」という破れかぶれの今の政策は、一体いつ破綻を迎えることになるのでしょうか。それを考えると空恐ろしくなります。
(この記事を書いた人:今市太郎)