足元の市場では米国が仕掛ける中国と同盟国への貿易赤字に関する恫喝から、買える通貨がなくなって大きくドル高が進行しました。
トランプ政権も11月の中間選挙を控えて消費者物価が大きく上昇するのを危惧して、ドル高についてはなにも触れないまま11月まで走るつもりなのかと思っていましたが、今回トランプのツイート砲で明確にドル高をけん制する発言が飛び出し、為替マーケットは一気に冷やされる状況となっています。
ここからの相場展開についてはかなり様々に異なる見方があるようですが、ある意味上方向や下方向といった意見のばらつきがあるからこそ為替市場は健全であり、儲けのタイミングも登場することになり、あまり大きな問題は感じません。
ただし相当市場を引きで見た場合、とくにトランプ政権が8年継続するとなった場合には現象的に「ドル高を容認するわけにはいかない米国の事情」というものが顕在化してくることになります。
トランプ政権の債務はレーガン政権時の22倍規模
もはやかなり昔の話になってしまいますが、映画俳優のレーガンが大統領になった時にも負債額の規模が常に問題になっていました。
当時100兆円という規模でも巨額と言われた記憶がありますが、足元のトランプ政権は原資もないのに大型の減税を断行していますし、秋口からは本格的にインフラ投資を表明するのではないかとみられています。
現状のトランプ政権の負債総額は日本円にして「2200兆円あまり」で円安が進めばその日本円規模はさらに大きくなる状況にあります。
米国がこの負債を今後粛々と真面目に返済して、プライマリーバランスを改善するなどということは恐らくまったくありえない話で、ここから債務を激減させるためにはどうしても「ドル安を実現しなくてはならない」という事情がかなり明確になりつつあるのは事実です。
中間選挙まではトランプ砲による口先介入のけん制程度にとどまるのでしょうが、歴代の財務長官が口にする強いドルというのは、ある種の表面的な常套句に過ぎず、いずれどこかで決定的なドル安を市場に強いてくる可能性があることだけは忘れてはならないものと言えます。
第二プラザ合意を持ち出してくるリスク満載のトランプ
今日明日に起きる話とは言えませんので、一応の可能性として頭に入れておいていただければと思いますが、トランプ政権が長期化すれば必ずどこかのタイミングで持ち上がるのが、1985年のプラザ合意の再来ともいえる「主要国間の為替レベルの合意問題」ではないかと思います。
すでにトランプ政権は発足時から専門家を集めて、こうした第二プラザ合意の可能性を探る会議を実施していますから、全く荒唐無稽の話というわけではなく、貿易問題で叩くだけ叩きまくって一定以上の成果がでなければ確実に為替に手を突っ込んでくることが予想されるところです。
今回は主要間合意になるのか米韓の取り決めのような為替に関する何等かの条約条項締結なのかはまだはっきりしませんが、こうした状況になれば真っ先に狙われるのは日本で、ドル円はこっ酷く円高にシフトするタイミングが訪れるリスクを常に抱えていることは間違いありません。
ただ、もはや1985年のプラザ合意の時のように劇的にドル安になることまでは期待していないとも思われ、ドル安調整がどのあたりに落ち着くのかが気になるところです。
前述のトランプ政権の債務を減らすという視点でみれば、ドルが半額になれば債務も半額ですからトランプ自身はとんでもないドル安を考えている可能性は否定できませんが、もうひとつ我々が心配しなくてはならないのは、トランプが繰り出してきている政策が悉く「インフレを助長する」ものです。
いくらFRBがトランプに忖度して、足元の利上げを後ずれさせるような政策を出したとしてもいきなりとんでもないインフレが市場を襲う可能性が否定できず、リーマンショック以降すでに10年になる相場で次に相場の暴落が起きるとすれば、リーマンのレベルを超える酷いものになるリスクも抱えていることは認識しておくべきでしょう。
相場暴落はトランプも想定内?
中間選挙のことを考えれば米国の株価が闇雲に下がるのは決して現政権にとってプラスには働きません。
しかし、その一方でトランプはウォール街もシリコンバレーのITもまったく気にしていないともいわれており、実際この間の補欠選挙でも株価が上昇していても共和党が負ける状況が続いていますから、最悪株価が暴落しても気にしないのではないかといった極端な市場の観測も飛び出している状況です。
確かに8年大統領をすればどこかで暴落に見舞われる可能性があるわけですから、気にしてはいられないのかもしれませんが、逆に大きなリセッションがくれば益々巨大なインフラ投資事業を行う絶好のチャンスでもありますから、トランプにとっては株価など本当はどうでもいいという見方にも頷けるものがあります。
今回書き連ねていることが足元ですぐ起きると誤解してしまうのは危険ですが、こうした材料がバックエンドで渦巻きながら市場が推移しているということだけはしっかり理解しておくべきではないでしょうか。
(この記事を書いた人:今市太郎)