ドル円の下落が止まりません。毎日朝起きると1円ずつ下方向に動いているここ数日ですが、この原稿を書いている段階ではなんとか106円にとどまっているドル円も105円台に突入するのはもはや時間の問題にも見えてくるかなり厳しい状況です。
米国10年債利回りはとうとう2.9%台に突入しており、多くの債券市場の専門家が注意喚起をしているように3%に入れば確実に株式相場に影響がでる直前のところまで上昇してきています。
ただ、米国株式市場は5日続伸でなんとかリスク回避からもとに戻りつつあるようで、日本の日経平均もドル円が円高に振れてもお構いなしで戻りを試し始めています。
ある意味何とも連動せずに勝手に円高方向に動きつつあるのがドル円の現状です。しかしこの動きは一体何に起因しているのでしょうか?どうもこれはトランプ政権が引き起こした財政不安に大きく関係があるようなのです。
財源なき大型減税と莫大な政府支出がドル円を押し下げる要素
株式相場の暴落以降もファンダメンタルズにはなんの変化もないなどというお気楽なアナリストが多いのにはあきれますが、まず金利の上昇は過去最大の証拠金債務(つまり借金をして株を買っている)米国の株式市場にネガティブなインパクトを与え始めています。
NYSEが発表しているMargin Dept(証拠金債務)は史上最大級レベルになっているわけですから、先ごとの下落だけをとってみても投資家には大変な負担がかかっていることは間違いなく、そこに潜在的に金利が上昇しているのですから、このままゴルディロックス相場を継続することはもはやできないところに差し掛かってきているといえます。
さらにトランプ政権になってから景気拡大のためのトリガーとしてみられてきた減税や大型の財政支出策は、むしろ経常・財政赤字という現実を相場に突き付けている状況で、これが足元のドル安、ドル円の円高に大きく影響を与えていることはどうやら間違いのない状況のようです。
1兆5000億ドル(約160兆円)の減税に加え、向こう2年に政府支出を3000億ドル近く増やす予算合意で財政は悪化するのは当然で、しかも内需を押し上げ貿易赤字もいくらトランプが騒いでも増加するとなればドルの一段安さえ危惧しなくてはならない状況に直面しはじめているのです。
先般の株価の暴落の時には単なる調整のように見えたドル円の下落にはしっかりとした理由が見え始めています。さらにここから金利上昇を本格的に嫌気して米株が大きく下落する局面に入ればより一層ドル円は円高方向に動くことが予想され、相当な注意が必要になりそうです。
日本政府はドル円100円割れでも介入はできない
麻生財務大臣が足元のドル円レベルは介入が必要なレベルではないと発言して瞬間的に相場は円高になりましたが、トランプからあれこれ通商問題で指摘を受け敵視される状況下では日本政府は100円を割れるような円高があってもいまのところ為替介入などできる見通しはなく、市場参加者がそれをもっともよくわかっている状況だといえます。
106.200円をあっさり下抜けたドル円はさらに下値を試すというのが市場参加者のコンセンサスになりつつありますので、ここからはよほどショートが溜まらないかぎりは下方向への下落の可能性が高まりますし、GPIFをはじめとする準公的機関の買いもここ数日こっそりと出てはいるようですが、とてもではないですが、相場を下支えできる状況にはないことが明確になってきています。
105円台は一定のサポートも出やすくなりますので突込み売りは禁物ですが、大きく戻したら当分は戻り売りで様子を見るのが利益獲得に一番近い売買法になりそうです。明らかに相場のセンチメントは変わってきており、株式市場とは別に為替市場が独自に動く時間帯にさしかかってきているようです。
(この記事を書いた人:今市太郎)