そろそろ米系各金融機関が来年の見通しを発表する時期となっているわけですが、各金融機関のアナリストを悩ませているのが米国債イールドカーブのフラット化の問題です。
Data FT
このコラムでは既に何度もご紹介している米国債のイールドカーブですが、ここへきて2年債と10年債のスプレッド差は恒常的に60ベーシスポイントを割り込み始めており、カーブとしてのフラットレベルはすでにリーマンショック前に近づいている状況にあります。
ブルームバーグが先週調査した結果によりますと金融各社11社のうち6社が、今後2年以内に米2年国債と10年債の利回りが少なくとも短期間逆転するだろうと回答しており、さらにそのうちの4社は2018年にそれが発生するとの見解を示しています。
これをどう来年の金融見通しに織り込むかが大きな問題になり始めているのです。
2000年のITバブルでも逆イールドを示現
アナリストが来年の年間市場見通しの発表に頭を抱えるのはごもっともで、2000年のITバブルの崩壊直前にも米国債のイールドカーブは逆イールドという状況に陥っています。
しかしこの逆イールドがでるとすぐに株価は暴落するのではなく、一旦チャートの形がもとに戻ったあとで大きな暴落がやってくることが確認されています。
不遜な話ではありますが、大津波が起きるときに一旦引き潮になって海が静かになるのと同じで、そのあとに大きな下落がやってくるというのが一つのパターンになっているようです。
これを考えますと、米国債が来年のかなり早いタイミングで逆イールドになったとしても、いきなり相場が暴落を始めるわけではないですから、果たしてこの兆候をどのように投資家にレポートで伝えるかを苦しむのは容易に理解できる問題ということがいえます。
証券部門にとってはクリティカルな内容
米国で証券部門をかかえる金融機関にとっては、業界として暴落が来るかもしれないと大声で叫ぶことは必ずしも自社の利益になることではありませんから、市場に警鐘を鳴らすことはできても来年は暴落になりそうだとは敬虔に語れない事情もよくわかります。
しかも危ない危ないと今年叫んでも結局そのようにならなかったのもまた事実で、過去20年あまりイールドカーブは明らかに相場暴落を示すバロメータではあったものの、次回の暴落にこれが確実にワークするのかという問題も出始めているようです。
逆イールドカーブの示現は相場に絡むものにとっては株価の大幅下落をいち早くイメージさせるものですが、もう少し冷静に経済学的な見方をすればリセッションが米国に近づいていることを示しているともいえるわけです。
完全雇用下で減税、インフラ投資をすればインフレは必至か
ところで足元のトランプ政権は完全雇用下でさらに減税を実施しようとしており、さらに来年は政権公約でもあるインフラ投資に足を踏み入れようとしています。
こうなるとまがりなりにもインフレがやってくることはほぼ間違いなく、FRB次期議長がいかに緩和的な立場をとろうともインフレファイターとしての中央銀行は一定の利上げをせざるを得なくなるのは当たり前ともいえます。
相場が危ない危ないという話は常に言い続ければ単なるオオカミ少年的な立場に追いやられますが、過去の知見から考えればいよいよおかしな状況にさしかかっているもまた事実ですから、アナリストが頭をかかえるのはよくわかる状況といえますが、トランプの政策実行過程でリセッションになりそうだとうのも整合性のない話しで、プロでもここからの市場の動向を見極めるのはかなり難しくなりそうです。
過去の暴落までのプロセスを信用するとすればまだ相場が大変な状況に陥るまでは相応の時間が残されているようですが、2018年は相当危険な水域にさしかかっていることを常に意識して売買しなくてはならない年になりそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎)