FRB議長はパウエル理事の横滑りで一件落着となりましたが、新たに副議長候補に「モハメド・エラリアン氏」の名前が突然浮上して市場では話題になっています。
モハメド?エラリアン?あまりピンとこないという人も多いことかと思いますが、今回はこの人物についてご紹介しておくことにします。
金融業界では要職を歴任
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モハメド・エラリアン氏は59歳で、名前からもお分かりのとおりエジプト系アメリカ人です。
もともと国連の職員であった父親が赴任した影響などもあって、欧州や英国と親和性の高かったエラリアン氏はUKで学位をえることになりケンブリッジで経済学の学位を受けたあと、オックスフォードでも修士号を取得しています。
このエラリアン氏はオバマ大統領のグローバル開発諮問会議議長、有力投資会社PIMCOの親会社であるドイツ保険会社アリアンツの首席経済顧問を務めた経験を持ちます。
またPIMCOの前CEO・共同CIOとしても有名で、フィナンシャル・タイムズ紙コントリビューティング・エディター、ブルームバーグ・コラムニストを務めていることからメディアにも多く登場しています。
IMF副部長、ソロモン・スミス・バーニー社マネージング・ディレクター、ハーバード大学基金CEOも歴任していますから、単なる学者のみならずかなり実務的な世界でも名をはせた存在ということができます。
年齢的にもまだ若い人物ですから、今後FRBではさらに議長へと昇格していくプロセスに乗っていく存在となるのかもしれません。
トランプ政権になってからトランプ色がつくことを多くの学者が嫌って、なかなか要職につかないという噂が絶えませんが、エラリアン氏がすんなり着任するのかどうかが見ものになりそうです。
ニュー・ノーマルで一躍有名になった存在
エラリアン氏でもっとも有名なのは彼PIMCOの在籍中に「ニュー・ノーマル」という言葉をはやらせたことです。ビジネスや経済学の分野において、2007年から2008年にかけての世界金融危機やそれに続く2008年から2012年にかけての大景気後退の後における金融上の状態を意味する表現として知られています。
その意味はまさに言葉通りで世界経済は「リーマンショック」から回復しても以前の姿には戻れないとする見方をあらわした表現とされています。
金融危機後の長期にわたる世界的な低成長を「ニューノーマル」と表現し、この言葉を世に広めたエラリアン氏ですが、直近のメディアインタビューではいわゆる『ニューノーマル』は終わりつつあり、自己矛盾によって食い尽くされようとしているからだと指摘もしています。
比較的慎重派
エラリアン氏は利上げには比較的慎重なタイプで、どんどん利上げを行えば経済と株式市場がどうなってしまうのかについてはかなりよく理解していることから、ここからの金融政策にエラリアン氏が加わることは、FRBを比較的ハト派的に導くという意味では期待できそうな人材ということができます。
パウエル氏が経済学位も持たないたたき上げの存在から考えますと、学究肌で実務派のエラリアンの登用は結構バランスのとれた選択になる可能性がありそうです。
ただ、米国は株式相場をはじめとしてバブル状態に陥りつつあり、商業用不動産の高騰はすでに「リーマンショック」前を上回る状況ですから、だれがFRBの要職についても一定の利上げは進めざるを得ない可能性は高まっておりその匙加減の問題が人選に現れてくることになりそうです。
ただ、今年の年末はトランプラリーも昨年のような雰囲気とはかなり異なっており、一部の市場関係者はかなり冷静に相場を見始めていますから、ここからどんどん株価が再上昇するかどうかは微妙で、むしろ減税関連の法案がうまく議会を通過しなくなれば、年内にもいきなり相場が調整してしまう大きな局面を迎えています。
下手をすれば新FRB議長副議長就任直後に相場の厳しい洗礼を受けかねない状況ですから、FRBの政策の行方からは依然目が離せない状況になりそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎)