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地政学リスクというと、北の国からのミサイルや核実験の話しか思い浮かばない日本ですが、実は世界的なレベルでは、サウジアラビアの様子がかなりおかしくなりつつあり、これが単に地域紛争のリスクのみならず、米国を中心とした株式市場に暗い影を差し始めているところが空目される状況です。
問題はアルワリード・ビン・タラル王子の逮捕
今回サウジアラビアで皇太子命令に基づいて行われた11月4日の一斉逮捕では、数十人の人間が拘束されることとなっていますが、驚くべき状況なのはその中に王子が11人も含まれていたことで、しかも世界的に経済に大きな影響を与えている人物が含まれていることが非常に注目されています。
そのひとりが「アルワリード・ビン・タラル王子」で王子というと若い人を連想しますが、この人物はすでに62歳で「キングダム・ホールディングス」を保有しており、世界有数のブルーチップカンパニーに投資を行う私的な投資ファンドの代表となっている存在です。
今回のサウジ国内での逮捕劇は、サウジアラビアのサルマン国王の息子であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子への権力集中が目的とみられているわけですが、このムハンマド皇太子がキングダム・ホールディングの所有する有価証券などをどうするのかにも関心が集まりつつあります。
たとえば投資証券を売却するような事態が顕在化すれば、米国の株式市場にもかなりの影響を与えることになりますし、原油価格下落のときにサウジのウエルスファンドが積極的に国内企業の値嵩株を売却して日経平均が下落したことを考えますと、日本の株式市場にも少なからぬ影響がでることが予測されます。
足元ではキングダム・ホールディングスの保有投資資産の売却が決定されているわけではありませんが、拘束されたアルワリード・ビン・タラル王子の裁量がきわめて大きなものであることは紛れもない事実であり、この問題の行方がどうなるのかは米国の株式市場にも大きな影響を与えそうです。
ソフバンとファンドを設立するのはムハンマド皇太子
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サウジアラビアというとソフトバンク・グループの孫正義が、巨大ファンドを設立することが報じられたのは記憶に新しいところですが、こちらは今回粛清に回っているムハンマド皇太子のほうでビットコインなど仮想通貨にも積極的な同皇太子が新たな経済へどのように取り組むのかも注目されるところです。
ただし、権力集中を目的に今回のような前近代的な粛清を実施するとなると、今後IPOが予想される世界最大の企業と目される、サウジアラムコについても決してプラスにはなりませんし、米国がどのように対応することになるのかについても不安が残ります。
サウジはイランとも対立激化
国内の粛清もさることながら、ムハンマド皇太子率いるサウジはイランとも対立を激化させており、西側諸国にとっては北朝鮮からのわけのわからないミサイルが時たま飛んで来ることよりも、かなり深刻な地政学リスクを形成しはじめています。
レバノンのハリリ首相は4日、「暗殺される危険がある」と滞在先のサウジから突如辞任を表明してしまい、サウジはレバノン在住のサウジ国民に即時出国を促すという緊張感の高まりを見せています。
さらに隣国イエメンでは、4日の夜にイランを後ろ盾とするシーア派の武装組織がサウジの首都リアドの国際空港に向けて弾道ミサイルを発射するなど、周辺国を巻き込む代理戦争も始まろうとしています。
当然このあたりの紛争ということになると原油価格にも影響を及ぼしますし、この価格が乱高下することになるとドル円などにもリスクオフで多大な影響が現れることが予測されます。
サウジとその周辺の地政学リスクの問題は、ほとんど足元のゴルディロックス相場は織り込んでいませんが、事と次第によってはかなり金融市場の相場を狂わす大きな材料になりそうで、ここからは相当な注意が必要になりそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎)