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米国上院で予算決議案が可決されたことから、さらに年内の税制改革の両院通過による実現に対する期待が俄かに高まりつつあります。
米国の金融市場は猛烈な楽観相場の展開となっており、20日の米株式相場は上昇、米国債は大幅下落で、「S＆P500」指数は週ベースで６週連続上昇と株式市場が驚異的な上げを記録しています。
とにかくボリンジャーバンドの日足＋2σの外でずっと相場が展開しているわけですから、どこかで調整が入ってもまったくおかしくはないわけですが、日々の相場だけ見ていますと簡単には下落しなさそうに見えてくるから厄介です。
確かに市場の異常とも思える楽観的な期待が高まっていることは間違いありませんが、予算案が通過したのは減税法案可決の第一歩に過ぎず、共和党内だけで可決できるとしてもまだまだ大きな問題が残っているのが実情で、どうしてここまでいいところどりの楽観相場が継続できるのかよくわからないのが正直な感想です。
減税の原資のめどはついたのか？
このコラムでは何度も米国の減税プランについて触れていますが、当初は減税の原資としては国境税調整を充てるという猛烈なプランが検討されていました。
昨年9月、トランプが大統領になる前にその政策スタッフとして「ピーター・ナヴァロ」と「ウィルバー・ロス」が発表していたレポートによれば、向こう10年でトランプ氏の経済計画が見込む歳入増加分約2兆4000億ドルのうち、貿易政策の強硬化だけで4分の3ほどを創出できるとしていましたが、この貿易政策の「強硬化＝国境税調整」の導入が見送られた今、大型減税の原資は見当たらない状況にあります。
共和党内の不協和音によりオバマケアの代替案の下院での採決すら断念せざるを得なかったトランプ政権がこの難問をどのようにして乗り切るのか、また国債などの発行でその原資を賄うとした場合、小さな政府を志向する共和党の理念に大きく反する部分もあり、様々な党派によって構成される共和党を本当にひとつに纏め上げるができるのかどうかにもかなりの疑問が残ることになります。
トランプの大統領就任決定から、この1年あまりで実にNYダウは6000ドル以上の上昇を果たしてきたことになりますが、今のところ事前の公約どおりにできたのは就任初日の「TPPからの離脱」だけで、あとは面白いほど何も実現できていない状況にあるわけですから、この減税プランが実現しなかったときの市場の期待剥落からの相場大幅下落は避けられない状況で、年末までのFX相場でもこの問題が最大の相場変動要因となりそうな気配です。
ドル円も減税案不成立なら大きく下落
トランプが大統領選に勝利した直後には101円台まで下落したドル円は、年末118.600円台まで上昇し、その後下落していよいよ年末に向けて113円台を徘徊する状況となっていますが、幸か不幸か株価の爆騰状態に追随して上昇はしていませんから、激しい下落になったとしても株価ほどの影響はない可能性も残ります。
しかしここからは107円レベルまで推し戻される可能性も残っており、年末に向けてドル円が上昇するのであれば、とにかく12月の「FOMC」と、この減税案の結果が出る前に売り抜けてしまうことがもっとも重要になりそうです。
まったく何の政策も実現しないまま株価は最高値、ドルは意外に安く推移し、失業率も史上最低といいことづくしのトランプ政権ですが、正直なところここからは悪いことしか起こらない可能性は極めて高く、債券市場が見通す米国経済のリセッションが近くなっている状況というものも見逃すことができなくなっています。
多くの個人投資家は大きな利益を得た直後に大損することが多いのが市場の「アノマリー」になっていますが、英国のゴルディロックスの童話では少女が入り込んだ熊の家に熊が突然戻ってきて、慌てて逃げることになったという大きな教訓が隠されていたことを忘れてはならない状況です。
（この記事を書いた人：今市太郎）
