8月米国の株式相場は「北朝鮮リスク」で下落はしたものの、すっかり元に戻しその後の調整も17日のNY市場では下落が進みましたが、その内容は大幅下落という雰囲気ではなくたいしたレベルにはなっていない状況です。
むしろFX市場のほうが投機筋にかき回されて上下に激しく動いた感があります。
もちろんこのFXコラムが掲載されたあとの8月後半に向けて大きな調整がでることも否定はできませんが、依然として楽観相場が継続中で、市場を長く見てきた要人が相次いでリスクを語り始めている割には、相場の下落リスクに市場がピリピリしている感じがまったくしないのが気になります。これにはどうやらいくつかの原因があるようです。
米系証券会社で相場を動かしているのは20代から30代中心
日本の証券業界というと、それなりの出入りはあるものの比較的安定した「終身雇用」を継続させている感がありますが、米国の証券業界はやはり”太く短く”の世界であり、しかも最近では高給取りはほとんどが理科系の出身で、クォンツの取引を開発しているだけといった輩がかなり多いのが実情になっているようです。
したがって過去のFX相場を知る存在というのは管理職で偉くなった一部の人間のみで、FX市場の現場にいるのはほとんどが20代から30代前半の層によるものであるというのが、今の楽観視相場を牽引しているように見えます。
たとえば足もとで30歳の証券マンを想定しますと1987年生まれですから「ブラックマンデー」の年に生まれ、2000年の「ITバブル崩壊」の年が中学生、2001年の「WTI」の同時多発テロはその翌年ですから、社会的事象としての認識はあっても株価やFXの暴落に直面した経験は皆無と言えます。
また2008年の「リーマンショック」でも大学卒業前という時期ですから、事実上相場の暴落経験は皆無といっていい状況です。
とくに米国の証券業界は人が大きく短期間に入れ替わっていますから過去のリスクに対する知見が受け継がれておらず、AIがそうした知見をフォローアップするのはまだこれからの時代の話で、こうしたことが相場にリスクが漂いはじめてもどこ吹く風という雰囲気を醸成しているように思われます。
特定の銘柄だけで稼ぐ業界構造
外から見ていますと確かに日本の証券市場より、米国の市場のほうが大きな利益を出しているのは事実です。インデックスだけでみてもそれは一目瞭然ですが、中でも最近話題になる「ビッグファイブ」と呼ばれる皆さんがご存知の銘柄です。
「アマゾン、アップル、アルファベット、マイクロソフト、フェイスブック」この5社が圧倒的な上昇を確保しており、平均伸び率は60%近くでS&Pの残りの銘柄とは雲泥の差を引き起こしてしまっています。
つまり特定銘柄だけの状況を監視しているだけで十分に利益を確保できているわけですから、全体の指数が多少下がってもあまり大きな問題にならずに毎日を暮らしている証券マンが米国には多いことが窺われます。
結局過去の経験を活かせないのがその本質
こうした状況ですから、我々が相場を見ていてなんとなく2000年のITバブル崩壊のときに雰囲気に状況が似てきていると思っても、米国市場の現場の人間はまったく気にせずに取引を継続させていることがうかがわれます。
これが高値でも買い進む相場を形成しているといっても過言ではないようで、さすがにFX市場はそれなりに上下動があってぼんやりしていればやられてしまいますから、過去のことは関係ないなどとは言っていられませんが、どうも株の市場だけはニュアンスがちょっと違う印象が高まっています。
しかし暴落となれば株の影響をもろに受けるのがFX市場ですから、関係ないとは言っていられないのが現状で、相場の変調というものをどう敏感に感じればいいのかが非常に難しくなってきています。
一人だけ敏感すぎても相場についていかれないですし、かといって一緒にのんびり構えていては必ず暴落に巻き込まれることになりかねません。
ここから秋の相場ではこうした微妙な相場の雰囲気をいかに正確にキャッチするかがFXでの成功にも大きな要因となりそうで、神経を研ぎ澄ます努力が必要になりそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎)