トランプ政権が「50年債と100年債の発行を検討する」と言い出して市場の関心を集めています。
すでに開示されている予算教書のほとんどが、どこからその政策実行原資を集めてくるのか非常に不透明で、突っ込みどころ満載の状況になっている中で、ムニューシン財務長官が50年債や100年債の発行を検討と口走ったことで、いよいよトランプ政権が「ヘリコプターマネー」の導入に踏み切るのかと注目を浴び始めています。
インフラ投資の費用が当面その対象になるのでしょうが、このやりかた一旦はじめたらやめられない止まらない状況になるのは目に見えているだけに米国は相当なリスクを抱えることになりそうです。
バーナンキがしきりと薦めたヘリマネ
100年債などといいますとかなり荒唐無稽な債券のイメージを持ちますが、アイルランドやベルギーなどは100年債を発行していますし、英国では永久に利子だけ払い続けるコンソル債などというとんでもない債券を発行していたこともあります。
しかし原発が後年度負担で後世の人々に大きな負担を強いるのと同じように、100年債などというのは先償還期限を過剰に長くしているわけですから、金が足りなければ毎年100年債の発行を続けていれば完全に「ヘリコプターマネー」となることは間違いありません。
借金をしてレバレッジをかけて不動産を買い回していくことが日常的に当たりまえのトランプにとっては、何の躊躇もないのでしょうが、果たして本当にこれで国が栄えるのかどうかは相当クビをかしげる状況であることは間違いありません。
ひとついいと思うのは「リフレ派」がやたらと日本に薦めてきたヘリマネをまず米国でやってみることで、米国は日本と比べてもはるかに財政状況は健全ですから、国債大量発行の余力はありますから、日本がヘリマネを行うよりはかなりましだということです。
10年先に存在するかどうかもわからない年寄りの安易な決断
ただ、非常にリスクが高いと思うのは100年度の世界のことをほぼ今の市場で生きているだれもが確認することもできないままに実施してしまうことで、トランプに至っては10年度にいるかどうかすらよくわからないわけですから、問題先送りもいいところで、ヘリマネを推奨する学者も含めて誰一人として実施後の問題の責任をとれないことは結構悲劇的な状況を巻き起こす大きな火種となりそうです。
資本主義がはじまってからかなりの時間が経過していますが、そもそも「マイナス金利」で適正金利を払わないとか、元本先送りで金利以外は一切返済しないなどというそもそもの資本主義の枠組みが登場すること自体、もはや破滅的な状況ともいえるわけですから、この発想はそうとう都合のいい政策であることは間違いありません。
また一旦この打出の小槌を時の為政者に与えてしまいますと、何の躊躇もなく資金が足りなくなれば超長期国債を乱発することになるのは目に見えた状況ですから、トランプのような存在にその利用を許してしまうのはかなりリスクが高いものといわざるをえません。
とりあえず市場の様子をうかがうムニューシン
ムニューシン財務長官はまず超長期国債の発行を口にしてみて、市場がどのように反応するのかをうかがっているように思われます。
今のところ50年債と100年債がその対象となっているようですが、短期債が売られて債券金利が上昇することは容易に想像できる状況であり、果たして米国が本当にこの方法に手をつけることになるのかどうかが注目されます。
そもそもトランプがこのまま大統領を続けられるのかあえなく退場になるのかはまだよくわかりませんが、政策原資がないだけに超長期国債の導入は結構簡単に決まってしまう可能性は高く、後世の米国民がメキシコとの国境の壁を見上げては国の没落をかみ締める時代が到来しないことを願うばかりの状況となってきています。
(この記事を書いた人:今市太郎)