米国の予算教書が発表されました。当初予定から3ヶ月以上遅れた予算教書ですが、登場した内容は時間をかけたことによるブラッシュアップは殆ど見られず、素人目に見てもトランプ大統領決定時に熱狂的な期待で、上昇した金融市場の過熱感はまったくといっていいほど感じられません。
昨日のNY市場では株式相場が嫌気しなかったという、かなり消極的な理由からドル円も111円台後半まで上昇する動きとなりました。
一段と絵に描いた餅の様相を呈してきている2018年予算
今回予算教書に盛り込まれた内容をかいつまんでみますと次のようなものになります。
・10年間で3.6兆ドルの歳出削減
・2021年以降は3%成長を実現し、10年後には財政収支を黒字化
・インフラ投資は10年で総計2千億ドル投資・インフラ投資総額1兆ドルの8割は民間資金利用
・歳出削減はオバマケア見直しを中心に支出削減
・連邦政府の累積債務は2027年度にGDP費60%以下とする
・国防費は2018年度に540億ドル増加
・地球温暖化対策予算削減・メキシコ国境の壁建設費用16億ドル
・法人税率15%へ引き下げ
・所得税は10、25、35%の三段階に簡素化
ざっと項目を見ますと大幅減税とインフラ投資が組み入れられており、一時は可能性なしといわれたメキシコ国境の壁の予算も項目としては辛うじて残されています。
しかし依然としてよくわからないのは、足元で間違いなく原資になりそうなのがオバマケアの廃止だけで、それ以外は高い成長率で経済が推移することによる歳入のアップに依存しているだけである点です。
果たして成熟化した米国が2021年以降確実に3%成長を実現できるのかどうかはかなり疑問であり、卵が先かニワトリが先かといった議論が巻き起こりそうな内容であることは間違いありません。
しかもこの減税を実現するために地球温暖化の予算は削減、低所得者向け医療保険などの給付も6160億ドル削減され、生活保護も2720億ドル減らされるといった具合で、低所得者にとってはさらに暮らしにくい世の中になりそうな気配であることに、果たして米国の国民がどう反応するかが注目されるところです。
大型減税についても細かい制度設計はなし
項目的にはもっともらしいことになってはいますが、税率のシンプル化などは盛り込まれても具体的な税金の制度設計はまったく開示されておらず、果たした本当に実現性があるのかどうかはかなり疑わしい内容になってきています。
時間をかけてもこの程度の内容にしかならないのは政策実行スタッフが圧倒的に欠乏していることを物語っており、大統領令で吼えることはできても、実際に詳細をきめ細かく策定できる人間を抱えていないトランプ政権の弱点がそのまま教書に露見するものとなってしまっているのは残念なところです。
しかもこれがロシアゲートの問題に阻まれて全く前に進まないことも十分に考えられ、果たして本当にワークするのかどうかが大きな問題になりそうです。
辞職、弾劾は免れてもいきなりトランプ政権はレイムダック化に向かう?
仮にロシアゲート問題で辞職や弾劾などを免れることになったとしてもここからは延々とこうした報道と戦っていくことを余儀なくされるトランプ政権は生き残りには成功してもかなりレイムダック化することが危惧されています。
具体的政策についてはなんら成功を収めることがなく時間だけが過ぎていくという最悪のパターンで進行することになれば、ほどなく相場が下落に転じることは間違いない状況で、今回株式相場は大きく期待剥落は起こしていませんが、これが上昇の起爆剤になるとも思えず、結構微妙な状況になってきているといえそうです。
いまや政策期待だけがトランプの命綱になっているわけですから、この程度の作文で果たしてここから先を乗り切っていけるのかどうかが非常に不安にさせられる今回の予算教書です。
実際の予算については議会に場を移し議会が決定することになりますが、多くの項目が実施不能に陥ればトランプは初年度からかなり苦しい政権となってしまうことが予想されます。
(この記事を書いた人:今市太郎)