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先日ワシントンで開かれた「G20」主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議ではほとんど為替について厳しい議論が起きず、米国のドル安志向はそれほど強いものではないといった印象を受けました。
しかし、4月14日に発表された米国財務省の為替報告書に「misalignments」、為替相場のズレという言葉が登場し、その後もウィルバーロス商務長官をはじめとして米国政府の要人がやたらと登場するようになり、この言葉からまたしても「プラザ合意」が再燃するのではないかといった危惧の念が昔を知る市場関係者の中で広がりつつあるようです。
プラザ合意の前にも使われだした為替相場のズレが再登場
1985年といいますとずいぶん昔の話になりますし、そのころはFXのような個人が参入できる為替取引も存在していませんでしたから、こうした合意がどのぐらい市場にインパクトを与えたかを正確に理解している市場関係者も少なくなってきていると思います。
当時米国サイドから頻繁に使われ始めたのが、この「misalignments」という言葉で、結局米国はドル高に悲鳴を上げて主要国による協調介入を各国に打診し、「プラザ合意」が実現することとなったのです。
それがまたしても為替報告書に登場し、要人が積極的に使い始めていることとに市場は非常に警戒をはじめている状況です。
悉くうまくいかないトランプ政策の中での奇策が為替か
4月30日で100日を経過するトランプ政権ですが、公約に掲げた政策は悉くスタックしており、なかなか実現の可能性が高まらない状況です。
減税案についてもかつてないというほど驚くべきものではなく、そもそも原資が全く用意されていませんから実現するのかどうかは議会次第のところもあり、政策期待はかなり後退し始めているのが実情です。
そんな中でドル安を実現するために為替に関して「口先介入」するのは議会の承認も必要ありませんし、主要国さえ承認すればプラザ合意のような形を再来させようと画策するのもわからない話ではないといえます。
果たしてこの歴史的なことばを持ち出してきて本当に為替に関して各国間合意をとりつけることになるのかどうかが注目されるところです。
国際的な状況は30年前に比べるとかなり変化
ただ、足元の国際的状況で本当に「プラザ合意」のようなものが簡単に結べるかといえば相当難しいのが現実です。
まず欧州はEUという連合体になっていますし、中国を入れないことには実現が不可能ということで、脅かされればなんでも言うことを聞くのは日本ぐらいの状況ですから、簡単に主要国間で為替のレベルについて合意し、「協調介入」を行うというのは相当むずかしくなってきていることは間違いありません。
また過度なドル安が示現した場合には米国から投資資金が大きく流出することになり、「貿易赤字」は減って企業利益は増加したとしても株価が大きく下がり始めるリスクに直面することになり、簡単に市場をコントロールできるような話ではなくなることも考えられます。
こうなるとトランプがすぐに新たな「プラザ合意」のようなものを持ち出すかどうかはまだ微妙であると思われます。
皮肉なことに1988年から数年間、この会合が開催されたプラザホテルを保有していたことでも知られ、「プラザ合意」とは意外なところでつながっていることもわかってきていますが、既存の公約に掲げた政策がさらに実現不可能となった場合にはいよいよ本格的に為替に対する政策を強引に進めていく可能性が高まりそうです。
これが現実になりますとドル円でも平気で10パーセント程度の円高がいきなり示現することになりますので、為替相場に与える影響は計り知れないものになるのは間違いありません。まさにドル円は政治銘柄へと変貌を遂げることになってしまうのは見逃すことができません。
(この記事を書いた人:今市太郎)