Photo NASA HQ PHOTO
このFXコラムでは既にご紹介しているとおり、トランプ政権は国家主義的な発想を強くにじませる「スティーブン・バノン」らの超保護主義派が政権発足直後から大きな力を発揮し、「TPP」からの脱退、中東7カ国からの入国制限、オバマケアの廃案などを次々と画策してきました。
しかし、結局政権発足後100日経過を前にしてまともに出来たのは「TPP」からの脱退だけで、あとの政策は悉くうまくいかずにハネムーン期間を終えようとしています。
しかも足元ではトランプの娘婿でもっともトランプが言うことを聞く「クシュナー」がバノンをはじめとする保護主義派を政権から外し始めたことから、どうやらトランプ政権が掲げる政策にも微妙な変化が現れ始めているようです。
アメリカファースト的な政策は後退か
トランプは相変わらずツイートで様々なことを呟き続けていますが、就任当初のような超保護主義的な発言はかなり影を潜めるようになってきています。
まず当初豪語していたメキシコとの国境のいわゆる新・万里の長城建設は単なるブラフに過ぎず、すでにその建設計画は取り下げらている状況にあります。
またオバマケアを廃案にしてさらに使いやすいヘルスケア計画を提案・可決するとした話もたった2ヶ月あまりで内容は練れておらず、下院にかけて採決すらとれずに頓挫した状況です。
これにより大型減税の大きな原資を失うこととなり、減税案の実施も危ない状況となってきています。
さらに大型減税のもうひとつの原資となる国境税に関してもかなり後退してきており、歳入を増やすことよりも貿易赤字を減らすことに力が入り始めていることから、当初WTOまで脱退も辞さずといった話は既に政権内では聞かれなくなってきています。
銀行の利益を圧迫するということから全面的な廃止を口走っていたドッドフランク法も事実上廃止は難しく、大きく上昇した金融株の下落を招く結果となってしまいました。
さらに米中首脳会談後は中国を為替操作国として認定しないことも明らかにしていますし、昨晩の発言では「FRB」の「イエレン議長」を敬愛するなどといった内容まで飛び出す始末で、たった100日でかなりの宗旨替えになってきていることが明確になりつつある状況です。
こうした状況の変化は、やはり政権内をペンス、ムニューシンをはじめとするネオコン系グローバリストがイニシアチブを取り返したことと密接に関係があるようで、クシュナーの存在感も非常に高まりつつあります。
やはり飛び出したドル高けん制発言
保護主義的な政策も見直し、議会との調整も必要な法案の可決には時間がかかるとなると、トランプは思ったことがひとつも実施できなくなる状況に追い込まれそうですが、ここへ来て金もかからず議会の承認も必要のないことに力を入れ始めていることが窺われます。
そのひとつが昨晩のNYタイムに飛び出した「ドル高けん制発言」です。
正確には日本時間の13日の早朝4時過ぎぐらいから急激にドル円が下落しはじめ、109円割れぎりぎりまで下落することになったのがこのトランプの発言によるものでした。
ドル高は自分への信認から示現していると思われるが、ドルが高いと問題が起こる旨を口走ることで体のいい口先介入を実施したものと思われ、ドル円は東京タイムに入ってからあっさり108円台を彷徨う状況となってきています。
恐らく、ここからのトランプ政権はかなり現実的に履行できる政策に傾注することで、荒唐無稽な政策から実務的な政策実現に大きく変化させていく意図があるのではないかと思われます。
ただ、ここまでかなり妄想的な期待だけであげてきた株価が、トランプの現実路線回帰で果たしてこのまま上昇を維持できるのかどうかが大きな問題になりますし、すっかり前倒しで利上げをしてしまった「FRB」の政策も失敗に終わる可能性が高まることになりますから、今後の相場の動きが気になるところです。足元ではシリアや北朝鮮起因のリスク回避で相場が下落しているように見えますが、この地政学リスクが回避されても相場が元に戻らないという危険性もではじめていることを忘れてはならないようです。
(この記事を書いた人:今市太郎)