今年も本邦企業は期末を迎え、この時期ならではの為替資金需要を抱える時期となりますが、今年に関しては例年と様子が違うといった話しも聞こえてきます。
すでに3月に入っていますので残りわずかの時間ですが、今回はこの件について考えてみたいと思います。
本邦企業のレパトリはトランプ政権のおかげで少なめ
この時期になるともっとも為替市場に影響を及ぼすのが本邦企業の海外子会社から本社に送金されるレパトリエーションということになりますが、どうも2月段階ではこの需要が例年に比べて少なく、多くの企業がトランプ政権の政策に不透明感が強いことから子会社内にそのまま内部留保として滞留させる傾向があることがわかってきています。
つまりここから急激な円高が進むのであれば、早く円転しておいたほうが日本円としてのボリュームが大きくなるわけですが、2月に実施された日米首脳会談の結果を見ても米国サイドから無闇な円安攻撃がでるようには見えなくなってきていることから、こうした動きが強まっているものと思われます。
ある意味ではどうしても円転させなくてはならないほど各企業とも厳しい状況におかれておらず、内部留保をドルで抱える企業も増え始めていることを示唆しているといえます。
こうした本邦企業の為替に対する見方は日常的な為替市場でのドル売り円買いなどにも影響を与えているはずで、切迫した需要でないかぎり足もとの相場水準で積極的に輸出企業がドル売り円買いをしてこない可能性もありそうです。
またトランプがふりかざしている1兆ドルのインフラ投資に関しても、米国での景気がよくなった場合にはドルでの再投資需要があると見込んでいる本邦企業が多いため、ドルで確保した利益はそのままドルで持ち続けるところが増加しているようで、トランプの政策がこんなところにも影響を与え始めていることがわかります。
東芝やタカタの米ドルによる損失補てん、罰金支払いの影響は?
最近ではもうひとつ為替で話題になるのは、東芝の米国市場における損失補てんの支払い問題やタカタの米国への賠償金支払いの問題です。
こうした支払いが期末に向けて出るのではないかといった憶測も飛び交っていますが、そもそも日本円でそれだけの内部留保金を持っているわけではないのですから、どおかから資金調達や支援を受ける必要があるケースがほとんどで、この場合単純に円で資金調達をしてドル転するといったものばかりではないとの指摘もあって、為替に与える影響は正直なところよく判らない状況になってきています。
ドル円の日常的な売買ボリュームは実需も投機も含めるとほぼ100億ドル程度といわれますが、8割以上はどこかで反対売買のでる投機筋や個人投資家によるものですから、実需は多くても1日2000億円程度の商いしかおこなっていないはずで、確かに1兆円のドル買い需要が短時間にでればかなり相場に影響を与えることになるのは間違いないはずです。
とくにその後反対売買がでない、いわゆる買い切りダマというものがこれだけのボリュームで短期間に登場してくれば少なからぬ影響がでると市場が関心をもつのも間違いありません。
また「M&A」による払い込みも期末までに済ませて決算に組み入れたい企業が多いはずですから、そうした需要も見込まれることになりますが「M&A」の場合、よほど間抜けな会社でない限りは事前に為替の手当てをしているところが多く、ニュースレリースがでてからだらだらドル買いがでるというのはあまりなく、相当早いタイミングでわかっていないとその流れの恩恵をあずかることはむずかしそうな状況です。
いずれにしても決算が絡むこうした支払い関係はあまりぎりぎりになってしまいますと、決算見込みを確定できないことから3月に入っても早めにでるのが基本となります。
ぎりぎり3月末に登場するのは調整的需要となりますが、逆に外資系の企業は3月末決算とは関係ありませんので四半期末需要がでることもあり、注意が必要となります。
こうして見てきますと、話としてはわかりますがなかなか為替の動きにこの手の材料を見込んでいくというのは相当難しいことがご理解いただけるのではないでしょうか?意識はしてもこうした特別な材料を見合いにして売買するのはちょっとリスクが大きそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎)