トランプ新大統領は就任初日から大統領令を発令するなど、いきなりスタートから猛ダッシュの様相を呈してきつつあるようです。
詳細は2月の予算教書を待たないことには評価のしようがない状況ですが、この「トランポノミクス」と呼ばれる政策を80年代のレーガン大統領の「レーガノミクス」の再来と見る向きがなぜか日本国内にはかなり多くなっている状況です。
ですが、実はこんな楽観的な見方をしているのは日本のエコノミストぐらいのもので、レーガンの信条や政策、そして経済がおかれている環境を比較してみますとまったくナンセンスであることがすぐに理解できます。今回はこの点についてフォーカスしてみたいと思います。
質素なレーガンと金満志向のトランプ
ロナルド・レーガンは俳優から大統領になった異色の人物であり、その経歴の変化からもトランプと比較されやすい人物と言えますが、この人はイリノイ州の農家の出身で、生来質素を最上とする考え方の持ち主であり、大統領になっても決して金満生活を謳歌した人物ではありませんでした。
一方トランプのほうは大統領選の戦略上は白人の低所得者に非常に配慮した政策を打ち出していますが、自分の富を目一杯誇示せずにはいられない人物であり、そもそも人としての「ファンダメンタルズ」が全くことなる位置にある対照的な人物といえます。
小さな政府を目指したレーガンと大きな政府志向のトランプ
両者のひととなりの違いはさておき、レーガン政権が考えていた政府とトランプの志向する政府にも大きな違いがあります。
レーガンは小さな政府をはじめから打ち出しており、政府が過剰に社会福祉にクビを突っ込んで国民の面倒を見るということは米国の自立を殺ぐ行為であるとしてできるだけ予算も小さく運用するというやり方に徹しました。
しかしトランプが掲げている大規模な財政出動により一気に経済を立て直すという手法は明らかに大きな政府を目指しており、財政赤字も拡大されるやり方でここだけ切り出してみても全く方向性は異なることがよくわかります。
直面する経済状況も大きく異なる状況
当然のことながら二人の大統領が就任時に直面することとなる経済環境も大きく異なります。レーガン就任時のフェデラルファンドレートはなんと19%であり、足元のトルコの政策金利の2.5倍を超える高金利時代からスタートしていたことがわかります。
また失業率もレーガンの就任時には7.1%でその後9.7%にまで悪化していますから、失業対策が急務であったことも足元の状況とはかなり異なるものであることがわかります。
共通項は強いアメリカという言葉だけ
トランプ政権はまだ始まったばかりで具体的政策のラインナップも確認できていませんから拙速に共通項を見出すわけにはいきませんが、足元の状況で唯一「レーガノミクス」と共通するのは強いアメリカを復活させるということです。
レーガンはいち早く減税を実施し、強いアメリカ復活のために軍事費も大幅に増大させることとなりましたが、この部分はトランプの政策にも共通するものが見られ、なぜかこの限られた共通点だけをシンクロナイズさせて「トランポノミクス」は「レーガノミクス」の再来とする論調が増えている点が非常に気になります。
トランプは短時間に経済活性化はかれない可能性も
トランプ政権の船出は、史上最低とも目される完全雇用と、底打ちして上昇局面に転じた金利、そして史上最高値を更新中の国内株式市場というレーガンが直面した政治状況とは全く異なるところからの発進ということになりますから、正直なところ成果が出しにくい可能性が非常に高まっているといえます。
特にこれから金利が上昇しようとする局面においては史上最高の割高感を誇る米国株価がさらに一段と押しあがるバブル相場を示現すると考えるのにはかなり無理があり、むしろ「FRB」の利上げ局面でいきなり大きく株価が調整をっ余儀なくされるリスクを考える必要があるのではないかとさえ思える状況です。
日本のエコノミストからはドル高のまま米国も日本も潤うといった妙に明るいシナリオが提示されはじめていますが、金利の上昇がこれまでの「中央銀行」バブルの恩恵で好転してきた市場を大きく変化させる可能性はかなり高く、トランポノミクスをレーガノミクスの再来と単純に思い込むのは相当危険な状況といえそうです。
むしろここからは妙な先入観にとらわれずに相場が発する信号をしっかり受け止めることが利益確保に繋がるのではないでしょうか。