年明けから金融市場はトランプ一色の相場展開となっていますが、実は今週もうひとつの大きなイベントが待ち構えています。それが英国メイ首相によるEU離脱に冠する17日の演説です。
「BREXIT」騒動でEU離脱が決まってから既に6ヵ月半の月日が経過していますが、3月に向けてそのマイルストーンについてようやくメイ首相が国民に説明することになるわけです。
これまで何回か英国のその後の状況とメイ首相についてはこちらのコラムでも触れてきましたが、改めて何が問題になっているのかについて掻い摘んでまとめてみました。
最大の問題は離脱決定プロセスもないのに国民投票を実施したこと
昨年の6月24日に国民投票が実施され、まさかのEU離脱賛成票が残留を上回り、「BREXIT」が確定してしまったのは皆さんご案内のとおりですが、そこから半年以上経ってもリスボン条約の50条に基づき英国がEUから離脱すると正式に表明できずにいるのには実は大きな理由があるといえます。
それはこの国民投票というものが単に法的拘束力もないままに実施された投票であり、しかもよもや離脱が決まるとはほとんど政権政党も考えていなかったことから、投票後に離脱プロセスを必死に考えるはめになってしまったのが最大の原因です。
さっさと退陣を決めてしまったキャメロンなる人物が自らの政党の票集めのために国民に公約してしまったEU離脱投票がいかに稚拙で思慮を欠いたものであったのかがいまさらながらに大きな問題になっているわけです。
議会を重視する英国で議会承認もないままにEU離脱だけ国民投票で決定してしまったわけですから、当然訴訟沙汰になるわけで、司法判断も複雑に絡んでいるなかで3月に向けてその離脱プロセスを公表しなければならないわけですから、メイ首相が悩み苦しむのもいたし方ないといえます。
離脱決定後に移民阻止か単一市場維持かの選択を迫られる稚拙さ
もともと離脱をなんとか留まってほしいと思っていたEUにとっては一旦離脱を英国が決めてしまった以上とっとと出て行ってほしいという話しか残らないのもまた事実であり、ここから英国がEUと交渉することで単一市場のアクセス権を維持できるかどうかなどまったく見通しは立っていないわけです。
英国にとってきわめて重要なビジネスになっている、シティの金融市場を守るために今頃になってこのアクセス権はなんとしても守るべきという意見が非常に強くなっており、メイ首相がこれを失っても移民の阻止を重視する姿勢を口にするたびにポンドが売られるという実に情けない展開が続いています。
仮に英国が単一市場維持のために譲歩する姿勢をとったとしてもEUとこの件がネゴシアブルである可能性はなんら保証されていないわけですから、まさにたらればの判断に過ぎず、しかも国民投票で決めてしまってから真剣に考えるようなことではないはずなのですが、今頃延々とこうした問題で議論しているあたりもなんとも稚拙な状況といえます。
そもそもEUが崩壊すれば単一市場は消滅
英国が「BREXIT」の内容をめぐって国内でつかみ合いをしているうちに、とうとう2017年EU加盟各国では総選挙や大統領選挙が実施されることとなり、EU自体の存続すらも危うい状況に直面しつつあります。
細かい国の状況はともかくもEUの主軸をなすフランスとドイツが選挙結果を受けて万が一離脱に向かうような動きとなればこの地域連合が終焉するのは間違いなく、英国がどれだけ単一市場にこだわってみてもそれが維持できるのは限られた時間になることも考えられ、足元で行われている英国の議論というものが完全に不毛なものに終わるリスクも十分に考えられる状況です。
為替的な側面だけから見ますと、EU離脱が決定して以降英国の物価は軒並み値上がりしており、米国よりも先に「インフレ」率が高まる危険性すら出てきています。
ポンド安を背景にして株式市場だけは依然絶好調になっているようですが、今後米国に次いで利上げをしやすくなる可能性は高く、金利上昇でポンド高が再来することも想定しておかなくてはならない状況です。
(この記事を書いた人:今市太郎)