今年、トランプの大統領選挙勝利とともに市場を驚かせ、年間でもっとも大きな暴落を示現させてしまった「英国のEU離脱を問う投票結果」でしたが、騒ぎが大きかった割には、まだ離脱が決まったわけでもなく、ここへきてこの投票結果をめぐって訴訟ラッシュが続いており、まともに離脱できるかどうかよくわからなくなりつつあります。
ややもすれば離脱するのやめたという結果が2017年にいきなり登場しないとも限らず、ポンド取引は来年も想像以上のリスクに直面しながら推移することになりそうです。
まったく用意周到感のなかったキャメロン元首相
もともとこのEU離脱の可否を問う国民投票というのは、投票後に離脱優位となったときにどれだけの法的拘束力があるものかまったく検討されていない中でキャメロン元首相の人気取りだけのための国民への公約となってしまったことから、投票結果が出てからも全く話が進まず、しかも議会主義の英国で、議会承認も得ずにこうした決定がなされてもいいのかという疑問がでるのは当たり前で、もともとやらなくてもいい余計な投票をしたことから結果はぼろぼろの状況になりつつあるのが現状です。
とくにこの投票結果がなんら法的拘束力をもたないという不備が次々と訴訟の材料になってしまっており、こうした裁判沙汰が決着しない限り簡単にはEU離脱に踏み切れなくなってきていることが注目されます。
すでに英国の高等法院ではEU離脱の正式な手続きを始めるEU基本条約50条の行使には、議会の承認が必要という判決が言い渡されており、来年1月末の最高裁の判決でどのような内容が示されるかでも大きく揺れ動きそうな状況です。
そもそもこの議会採決をとる時期はいつが妥当なのかという点でも50条実施前か実施後か、はたまた「BREXIT」の要件がすべて整った2年後の時点なのかについて今頃法的な解釈をもめているわけですから、これで本当に春先にリスボン条約の行使に踏み切れるのかどうか、かなり危うくなってきているともいえるのです。
しかも足元ではこのリスボン条約を一旦行使したあと、その決定を無効にできるのではないかといった英国内の主要な弁護士の訴訟も起こされており、EUの最高裁も巻き添えにしかねない状況へと展開中です。
採決やり直しと言うお粗末な結果もありうる
このままですと、議会の採決が得られない場合、来年に入って再度解散総選挙で民意を問うような話も登場しかねない状況となっています。
もし今「BREXIT」をテーマにして投票が行われれば離脱撤回というさらにまさかの事態も起こりうるわけで、為替の世界で考えればポンドの動きが大きくまき戻るリスクにも注意が必要となります。
国内では個人投資家の取引の多いポンドドルでみますと、既に「BRXIT」の暴落を下回る水準も示現した今年の秋の相場ですが、トランプ勝利でドルが大幅上昇するのにあわせて150円の手前まで戻してきており、ここからまさかのEU離脱撤回ともなれば再度170円方向に戻りを試してもまったくおかしくない状況にあります。
一方粛々と離脱が進行する事態になれば再度100円方向を試す動きもでてくることから、まさにここからは政治的な状況次第の、典型的な政治銘柄通貨になってしまいそうです。
とりあえず年明けは1月末の最高裁判決がどうなるか次第でまたひとしきり動きがでることが予想されますし、正直なところ今方向感を示せる状況ではないことだけはしっかり理解したうえで売買を続けていく必要がありそうです。
ボラティリティが高いということはFXの世界ではそれだけ利益機会が多いともいえるわけですが、ポンドの場合にはその動きの激しさは尋常ではありませんから、動き出してからその方向についていくという基本的な考え方を遵守することが求められそうな2017年のポンド相場です。
(この記事を書いた人:今市太郎)