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イタリア第3位となるモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行は、経営危機を乗り切るため公募増資実施に向け、株式購入の申し込みの受け付けを開始していますが、どうもうまくいっていないようで、イタリアのジェンティローニ首相は、同行への公的資金注入に備え、債務上限を最大200億ユーロ(約2兆4千億円)引き上げるよう議会に要請する方針を表明しています。
先般行われたイタリアの国民投票前まではレンツィ首相によりなんとか再建手立てを模索していたはずのこの銀行ですが、結局自主再建がうまくいかなくなりそうで、年末のこの時期ユーロに暗い影を落とす事態となってきています。
流動性枯渇で4ヶ月もつかどうかの状況
21日このモンテ・パスキは110億ユーロ、米ドルで115億ドルの流動性が当初考えていたよりも早く枯渇する見通しを明らかにしており、今のままでは106億ユーロ残っている流動性ポジションは4ヶ月で枯渇する見込みであると発表しています。
これを受けて同行の株式が大幅下落状態に陥っており、売買停止に追い込まれているようです。
そもそもモンテ・パスキとは
モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナは1472年に設立された世界最古の銀行として有名な存在ですが,ここのところ不良債権を非常に多く持つ存在としても有名で、その不良債権比率は2015年末時点でも41%に達しているというかなり危機的な状況にあります。
同行は欧州銀行監督機構から、今後3年間で100億ユーロ以上の不良債権削減を求められていますが、そもそもここまで不良債権をかかえてしまっているわけですから減らせと言われて簡単に減らせるはずもなく、自己資本比率は見る見るうちに減少しマイナス状態に陥っているのです。
昨日今日にはじまったわけではない不良債権問題
そもそもこの銀行の不良債権が増えたのは2000年ごろからの融資がきっかけになっているようです。
2000年代初頭、米国の住宅市場を中心に世界的な不動産バブルが発生し、このバブルの熱気にあおられて、ユーロ圏の銀行も積極的に不動産や企業向けの融資を増やしましたが、その崩壊はサブプライム、「リーマンショック」でご存知のとおりの状況となり、世界的な不動産バブルは終焉を迎え多くの金融機関が不良債権問題に直面することとなります。
モンテ・パスキもそのひとつであり、2008年以降延々とこの問題を解決できないまま今日に至っているのです。「リーマンショック」後、米国では政府や「FRB」が不良債権の買い取り機構を設置し、不良債権の処理や銀行の再編が進みましたが、ユーロ圏ではソブリン危機が発生し、南欧を中心に不良債権の処理が遅れてきています。
特に、中小企業向けの融資が多いと言われるイタリアでは、景気の低迷が企業の倒産件数を増加させ、不良債権は今も増加傾向にあるのです。
しかも「ECB」がとっているマイナス金利のおかげで「ECB」の当座預金に預けてある同行の預金にはモンテ・パスキ自体が金利を払い続けているわけですから、救済にもなににもなりはしないのが現状で、一体全体「ECB」はこの銀行をどうするつもりなのかに注目が集まります。
EU域内では金融機関の破綻危機の場合、銀行自らの負担、つまり預金者,債権者を含めて負担するベイルインが基本的な救済方法となりますから、公的資金が投入されてなんとか破綻しないで済むという選択肢は用意されておらず、本当のところどのような決着がつくのかが非常に心配される状況です。
すでにクリスマス休暇モードの市場は、大きな混乱にはなっていませんが、逆にクリスマス明けにいきなり「リスクオフ」モード全開の動きになる危険性も高まっており、今後の動向に注目があつまります。
2017年、為替相場の主体はドルからユーロに移行しそうな様相を呈していますが、その予兆ともなるこの銀行の動きには目が離せない状況となりつつあります。
(この記事を書いた人:今市太郎)