HIAをご存知でしょうか?Homeland Investment Actの略号がこれにあたるのですが、日本語では本国投資法と呼ばれる法律のことをさします。
この法律は今から12年前の2004年にブッシュ政権下で時限立法として成立したもので、米国に存在する多国籍企業が海外で得た利益や配当金、余剰金などを国内に還流(レパトリエーション)した場合にその税負担を優遇しようという法律で、どうやらトランプ次期大統領はこれを恒常的に実施しようとしているようです。今回はこの件についてまとめてみたいと思います。
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ドル高効果満点のHIA
レーガン政権の2005年限定策となったこの本国投資法は還流した資金が、米国内での再投資に使われる場合に限って法人所得税率を従来の35%から5.25%に引き下げるというもので、結果的にこの1年で843社が3,120億ドルを米国に持ち帰ったとされています。
こうした減税策は在米企業の設備投資が増えやすくなり、また自社株買いの原資としても機能することから景気と株価を上昇させるためにはかなり効果的な策ということができます。
トランプ政権ではどのぐらいの税率になるのかはこれから決まることになるわけですが、仮に2005年と同様の規模のレパトリが増加したとすれば、そのうちの2割がドル円に絡むものだとしても足元の相場から考えれば年間で7兆円弱の買いきり玉として円からドルに転換されることになりますので、それなりのインパクトがでることになりそうです。
2013年、「アベノミクス」スタート年に海外の「ヘッジファンド」が日本株購入に伴うヘッジでドル円を買ったのが15兆円ですから、その半分ぐらいが恒常的にレパトリとなればドル円を支えるかなりの材料になることは間違いありません。
国外移転企業へは大増税を示唆のトランプ
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ドナルド・トランプ次期米大統領は12月1日、メキシコに移転予定だった空調大手キヤリアのインディアナ州の暖房機器製造工場を訪ね、移転を阻止して同州の雇用を守った成果をアピールしています。
また他の米企業に対しても、海外への業務移転を決めれば厳罰に処する考えを示しており、米国からの移転を検討しているとわかれば、この国から出て行かないように各方面から電話をかけさせると同氏は語っており、自らも電話をすることを惜しまないというこれまでにないような型破りなアプローチを展開しようとしています。
ドル高けん制がいつ出るのかが問題
不気味なのは、いよいよいろいろなことを口走りはじめたトランプがもっとも金をかけずにけん制発言をすることで効果を発揮するはずのドル高発言を一切しなくなっていることです。
今のところ次期政権の関係者からなんのお咎めもないことから順調にドル円は上昇を続けていますが、これがひとたびトランプにより円をターゲットとした集中砲火がはじめれば、たちまちドル高は解消する可能性が高く、しかもそれがいつ飛び出すのかわからないだけにかなり危険な時期にさしかかってきているといえそうです。
おそらく本格的なけん制がではじめるのは政権の形がきまる年明けからなのかもしれませんが、米系のファンドが時間を焦ってドル円の上昇に奔走するわけもこのあたりにありそうで、年が明けるとあらゆる状況に変化が生じるリスクが高まりそうです。
それにしてもこれまでの政治家経験の長い大統領と違って、単なるビジネスマンであるトランプの場合、ここから何をしでかすのかまったく予想がつかないのも結構怖いものがあり、とくに日本円については安穏とした円安が続かないのはもはや目に見えているだけに政治的な意味での相場の転換期がいつ到来するのかについてはそうとう目を光らせておく必要があります。
このHIA導入の話も一時的にはドル円にプラスに働きそうになっても恒常的な支えになるのかどうかはかなり微妙な材料となりそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎)