自分の考えを表に出さず、政治家同士で馴れ合おうことも良しとしない氷の女王という前評判でしたが、いざ政治がはじまってみると、結構自分ひとりでいろいろなことをさっさと決め、まったく譲らないという故サッチャー首相とはまた別の鋼鉄の女ぶりを発揮しはじめており、かなり話題の存在になりつつあります。
もともとこれが正しい道だと一旦確信したらぶらない人との前評判もありましたが、ハード「BREXIT」に関してはその考え方は想像を絶する猛烈ぶりで、さすがにポンドが強烈な売り浴びせを受けるだけのことはある存在のようです。
EUには懐疑的でもEU残留を志向していた存在
他国の政治家というのはいきなり首相などに登場されても、どんなバックグラウンドでどのような考え方の持ち主なのかというのはまったくわかりませんから、とにかく前評判を信じるしかほかに道はないわけです。
しかし、どうもこのメイ首相は前評判と実際の動きがかなり異なってきているうようで、トランプなどの見栄えからして危ない人物とはまた違うタイプの危ない存在であることがわかってきています。
簡単にバックグラウンドをご紹介しておきますと、メイ氏は1956年生まれの59歳で、イングランド南部イーストボーンのイギリス国教会の牧師の一人娘として生まれ、教区の信者を助ける父の影響で政治家を志したのは12歳の時だったそうです。
その後名門オックスフォード大学へ進学。地理学を学び、卒業後はイングランド銀行など金融業界で活躍し、1997年から下院議員に初当選して国政に進出しています。
このメイ首相はそもそもEUに対しては懐疑的な考えをもっていたようで、とくに移民については厳しい態度をとる人物として有名であったようです。
6月の「BREXIT」の投票時はキャメロン首相に従う形で英国のEU残留を訴えたひとりであったため、「BREXIT」の交渉には向かないのではないかといわれていましたが、実は必ずしもそうではないことが今ごろになってわかってきているのです。
移民数の制限を最大の目標としてEUと渡り合う姿勢
いよいよメイ政権でEUとの「BREXIT」交渉がはじまろうとしていますが、このメイ首相はとにかく移民数の制限を最大の目標に掲げているため、それにより英国がEUを単一市場としてアクセスできなくなっても仕方ないという発想になってしまっていることから、ここへきて市場の懸念が高まっているのです。
特にイギリス議会はEU残留が多数でしたから、議会をすっ飛ばしてハード「BREXIT」の交渉を行うこと自体にも議会は難色を示し始めており、EUとの交渉もさることながら国内の調整でもかなり難航しそうな状況となっているわけです。
とくに「BREXIT」騒動がはじまったときから危惧されていた、ロンドンシティの金融街のビジネスは英国がEUを単一市場としてアクセスすることを認められなければ国外に出て行くことは必至の状況であり、これが本決まりになると「GDP」の12%と200万人近い雇用が失われるだけに、英国にとってもかなり大きな問題になってきているのです。
しかしメイ首相は一切これに折れる姿勢は見せておらず、最近ソフト「BREXIT」を口にしはじめたハモンド財務大臣に対しても相当厳しく対応しているようで、ややもすれば更迭しかねない状況になってきているというのです。
ということで、当初は控えめで実務的な存在とみられていたメイ首相ですが、実はふたを開いてみたら、かなりの部分を独断専行で自分自身で決定してしまい、さらに誰よりも厳しいタフネゴシエーターとなってしまったようで、今後もメイ首相の口から厳しい内容が語られるごとにポンドは下落する危険性が高まっていることがわかります。
多くの英国民もこんなことになるとは思っていなかったようで、かなり意外な展開になってきていますが、英国の対EU交渉は想像以上にもめそうな予感のする足元の状況です。
(この記事を書いた人:今市太郎)