日本ではなぜか詳細が報道されませんが、米国の大手銀行の行員が厳しいノルマに耐えかねて顧客に許可を取らずに「預金とクレジットカードの口座を不正に開設してしまう」という前代未聞の不祥事が発覚し、顧客の信頼を著しく落とす結果となっています。
なんと不正開設口座は200万件、顧客への損害賠償額だけでも500万ドルという巨額な内容です。
銀行口座に入れておいたお金が第三者に引き出されて、すっからかんというのは日本でも頻繁に起きることですが、銀行に勝手に口座とカードを作られたのでは、おちおち預けておくこともできないわけで、米国の投資銀行というのはここまで追い詰められているのかということに改めて驚かされる次第です。
ウォーレンバフェットも株を保有する超優良銀行のはずが・・
「ウエルズファーゴ」は1852年にヘンリー・ウエルズとウイリアム・ファーゴの二人によって始められた会社で、もともと1849年のゴールドラッシュの直後に、金塊や郵便などを輸送するエクスプレス(急便)の必要性が出たことに目を付けて始められた会社が前身でした。
それ以降はサンフランシスコを拠点とした銀行運営を行ってきましたが、1998年にミネアポリスのノーウエスト銀行と合併、さらに2008年の「リーマンショック」後にはノースカロライナ州のシャーロットに本社を置くワコビア銀行を傘下に収め、いまや全米で6000拠点を越えるネットワークを持つリテール銀行へと成長を遂げています。
住宅ローン、中小企業融資、オート・ローン、商業不動産貸付などで全米第一位を維持しており、消費者関連での売り上げが多いのもひとつの特徴となっています。
この銀行「ウォーレン・バフェット」が唯一、「永久保有銘柄」に認定していることでも有名で、そんな超優良銀行のはずが実はとんでもない不正をやらかしていたことになるわけです。
26万強いる従業員のうち今回この不正で5300人が解雇されていますが、実に100人いると2名は不正実行社員ということで、もはや会社ぐるみといわれても仕方ない状況になってしまっているのです。
銀行業務は典型的な構造不況業種
いまや世界的に低金利時代で、「マイナス金利」を導入した欧州と日本でも商業銀行は利益確保に喘いでいる状況ですが、マイナスにはなっていない米国でも低金利の継続は銀行業務に大きな影響を与えており、厳しいノルマをクリアするとなると、今回のようなとんでもないことを銀行ぐるみのレベルで引き起こすところまで追い詰められていることがよくわかります。
最近では米国の銀行はATMで自分のお金を銀行から引き出すだけでも10ドル、日本円で1000円に近い手数料を徴収するようになっており、多くの顧客はクレジットカードやデビッドカードで買い物するのが当たり前になっています。
また、小額決済のフィンテックが大流行なのもこうした背景があるからにほかなりませんが、ここまで銀行が窮地に立たされているというのはかなり見逃せないものといえます。
米国の銀行はここのところジョブカットも多く、これが本当に景気がいい状態といえるのか、かなり首をかしげたくなりますが、来年以降米国経済もリセッションが鮮明になると、ますますドル安政策が前面にでてくることも考えられ、米国の金融機関の動きには引き続き関心を高めることが必要になりそうです。
デリバティブの含み損がいくらあるかわからないという「ドイツ銀行」の経営の謎に比べればずいぶんとお粗末な話ですが、米国の金融機関はお世辞にも一流企業とは言えず、どこかの国の居酒屋チェーンやPC販売店などの「ブラック企業」と大して変わらない存在であることをあらためて認識させられます。
「リーマンショック」から、丸八年が経過して、少しは金融業界も過去の失敗を教訓にしてまともな業界になったのかと思っていましたが、根っこの部分は昔も今も大して変わっておらず、ここから先もまた信じられないようなことが起こる可能性があることだけは肝に銘じておかなくてはなりません。
(この記事を書いた人:今市太郎)