私は以前から申し上げるように、外国為替の専門家というよりもむしろ原油の専門家なのです。
2014年に原油価格が大幅な下落をしたときに、報道はやいのはやいのと「OPEC」が減産するべきだ、と騒いでいたのを冷めた目でみていたものです。
結果は待てど、暮らせど、本欄にも書いたと思いますが、減産合意には至らず、私からみれば当然の話なのですがマスコミは産油国危機と煽りますが、産油国、特にサウジからみると当然の判断になると思います。
何度も、申し上げるように原油の価格形成というのは需給に基づいてなどおらず、「基軸通貨」つまりドルの値段によって決定されているのです。今回はその話をしてまいりましょう。
原油不遇の時代
それは、1970年代に「オイルショック」を迎え、1990年代の価格低迷期になります。
1バレル10ドル台が定着をしていました。そのころの経済というのは日本は言わずとしれたバブル経済、アメリカはレーガノミクスを経て、財政が均衡して経済的な繁栄をしていましや。当時の中国は天安門事件を経て鄧小平氏が経済の開放路線をひいていた、と記せば、原油の需要はウナギ登りであったことは当然です。しかし、価格は低迷をしているのです。
中東では、その後始まる「湾岸戦争」をみればわかるように、政治状況は混迷を極めていました。
つまり供給は不安定で、需要は増加していたのに原油価格は低迷をしたままだったのです。産油国からすればドルでその代金を受け取っていれば何の損もないのですから当然の話っでそれを現地通貨に変えるから貧乏になるだけの話です。
つまりサウジの国営ファンドなどは、外貨建てで資産を運用していたほうが為替差損はなくなるのですから当然のことです。ただ、中東の一般庶民は当然、収入が減りますので各地でそういう暴動が起こって当たり前です。
今回のアラブの春にしても同じことですよね。原油価格が低迷をすると、中東が荒れる、ということは明白です。リビア、エジプト、結局、原油価格の低迷が主要な原因で、また世界を震撼するISが台頭しているのはやはり原油価格が低迷してからです。
つまり原油価格の低迷というのはドル次第で、原油価格が低迷をすると必然として中東が不安定化するのです。
今回の非公式減産はなぜ行われたのか?
原油の価格は、ドルの値段に左右をされるということをきちんと考えていただければわかると思いますが、たとえば、ドル円相場など120円から100円までドルが下落を20パーセント近く下落しているのに原油価格は横ばいですよね。
つまりドルが安くなると価格が上昇する原油が横ばいというのは「OPEC」、ロシアを含めた非OPECを含めて収入減になるのです。
だから今回、非公式で減産を決めたのです。その施行は11月の本会議で決定をするのですが、なぜ、11月まで延長したかといえば、簡単です。
年末には、アメリカの利上げが行われそれで一瞬は原油価格は上昇するでしょうが、長期では価格が低迷するのが明らかなのです。現在、世界は東アジアを中心に経済成長を遂げていますが、本来なら需給はタイトですから価格は上昇、その上、年初からドル安なのですから上昇しなければいけないものが下落しているのですから危機感は相当なものでしょう。
つまり、原油価格はこれ以上、ドル安の施政下においては許さない、という態度を明白にしておきたかったということになります。
また、副次的なものとして中東が、原油価格が安定をすれば、ヨーロッパに流れ込む難民の数が激減をします。日本やアメリカ、そしてヨーロッパも大規模な「金融緩和」を行っている割には物価の上昇が非常に緩慢な状態です。こういった国際政治の配慮も今回の決定にはあるでしょう。
日本を例にとると、たとえば、企業物価に占めるエネルギー価格、つまり石油価格や天然ガス価格の割合は45パーセントも占めるのです。つまり2014年から15年にかけて原油価格が120ドルから30ドルに下がって価格が1/4になってしまったら物価指数が下がって当たりまえです。
また、消費税は買いモノの総額に対して8パーセントなのですからその物価がさがれば税収が下がります。企業においても原価3割というのが標準なのでしょうが、やはりもともとの値段をパーセント表示でしている訳ですから代金が上昇すればするほど、利益は上がるのです。
つまり原油価格が下がって喜ぶ国は、どこもない、ということになります。ですから原油価格が上昇すると株価が上昇するし、政府の税収も上がるので国債への信任もあがる、為替相場においてはみな一律に成長をするのですから、上昇するのが当然のこととなります。
(この記事を書いた人:角野 實)