安倍内閣改造や総合経済対策の規模の話などで、あまり話題にはらずにスルーされてしまった感があるのが「日本国債の長期金利上昇」です。
8月1日の「国債」の市場では、日銀の追加の金融緩和策に国債の買い入れの増加などが盛り込まれなかったことから日本国債を売る動きが広がり、長期金利の代表的な指標である満期までの期間が10年の国債の利回りは一時、マイナス0.13%と、6月下旬以来の水準まで上昇し、マイナス幅が縮小することとなりました。
まあ上昇したといってもまだマイナス圏の話ですから、騒ぎにならないのも当たり前といえばそれまでですが、市場ではほとんど売買がなくなってしまった感のある日本国債(JGB)が売られて価格が下落するという場面を見ますと、需要がなくなって売れれればやはり金利は上昇するものなのだということを改めて実感させられます。
JGBを保有しているのが一体だれ?
日銀が「国債」を買い入れするという話は3年前から市場で「金融緩和」が始まったときから聞いた話ですが、現状の保有者の割合はどうなっているのでしょうか?日銀のホームページをみると最新の保有者割合を見ることができます。
日銀が今年の3月段階のものとして発表しているのが、上の構成図ですが「国債」に関しては圧倒的に国内勢の保有が進んでおり、以前から言われているように日銀の保有比率はすでに3割を超えています。
また国庫短期証券というのは、一般には聞きなれないものですが、2009年から日本政府が発行を開始した「割引債」のことで1年以内に償還期限のもののことをいいます。
償還期限は2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年の四種類で、こちらは半分以上が海外投資家が購入しているものとなります。
双方をならしてみますと海外投資家の保有比率は10%を超えているように見えますが、実際にはいわゆる長期国債の海外勢の保有比率は5%程度であり、ゴルゴ13の劇画にでてくるように海外の投資ファンドが「JGB」を徹底的に売り込んだとしても、ほかの保有者がびくともしなければ、価格が崩れ金利が暴騰する危険は他国の「国債」に比べてかなり低いといえるのです。
ある意味ではこれをいいことに「超低金利」を長く続けてくることができたともいえるわけです。
足元では日銀の次に保有の多い金融機関や生保などが全体の50%以上を安定的に保有しているわけですから、何の心配もないとはいえますが、これがひとたび「ハイパーインフレ」のような状況になり、「マイナス金利」の「国債」など保有していられないと大挙して国債の売りに向かうようなことがあれば、日本国債は金利が大幅上昇し、他国でもよく見られる暴落といった状況に陥ることもありうるわけです。
「日本国債安心論者」は口をそろえてそんなことはないといいますが、つい最近日本の「メガバンク」の最大手である三菱東京UFJが、プライマリーディーラーの資格を返上すると言って話題になったように、銀行が「国債」を買わなくなれば事態は大きく変化することになってしまうのです。
国債の危機的状況は国内の投資家の売り浴びせによって起こる?
こうしたことが起きないように「日銀」と「財務省」はとにかく「インフレ」で金利が上昇することを徹底的に食い止めており「アベノミクス」などと名づけられた金融抑圧政策の中でも、金利の上昇を絶対阻止することが最大の急務になっていることは間違いありません。
したがって経済状態が変動した場合には、彼らは株や為替を見捨ててもこの金利上昇だけは最後の砦として守り抜こうとするはずですが、どうもこれまでの鉄壁の守りが徐々に崩れ始めていることも事実のようで、おそらく国債の危機的状況は国内の投資家からの売り浴びせによって起こるのではないかとの見方も強まっています。
このあたりは日銀がうまくやっていれば大丈夫という意識が非常に国民にも強く定着していますが、いまやそうでもなくなってきているのが現実の状況なのです。
少なくとも海外投機筋は日銀の政策に嫌気すれば、このように平然と保有国債を売り浴びせにかかるということだけは事実として理解しておく必要があります。
ここ3年の日銀の国債買い入れで、相場自体はほとんど壊れた状態でまともな売買の市場が確立できていませんが、この領域にもっととんでもないことが起きるのを垣間見ることになるのもそう遠い話ではなくなってきているように思えます。
(この記事を書いた人:今市太郎)