どこかの劇画の台詞に「お前はもう死んでいる」というのが流行った時期がありましたが、東証の裁定買い残をみていますと実は「アベノミクス」とやらも当の昔に終わっているのではないかと思われる気分に陥ります。
為替のコラムの話にいきなり株の裁定買い残の話題で恐縮ですが、足元の裁定買い残はたったの7500億円というのはあまりにもおかしな話であり「リーマンショック」後の市場が混乱した時期である2009年以来、金額的には2011年12月9日時点の8572円を下回る状況になっているのです。
BREXITで大騒ぎになったはずの英国のFT100 がアウトパフォームに転じ、NYダウも元に戻っている中にあっては、典型的な一人負けの状態が続いていることが明確になってきています。今回はこの件についてお話してみたいと思います。
裁定買い残は外国人投資家の先物買いのバロメーター
出典 楽天証券
「裁定買い残高」というのは、主に外国人投資家による日経平均先物の投機的な売買動向を表しているとされています。外国人投資家が先物を買うと、先物が現物に対し一時的に割高になるので、裁定業者(主に証券会社)が、先物売り・現物買いの裁定取引を実行します。
すると、裁定買い残高が増えることになるのです。これまで「アベノミクス」スタート時期から裁定買い残はかなり積み上がっており、それにあわせて株価も上昇してきたことがわかります。
ここ3年ほどは、3.5兆円から4兆円の裁定買い残でピークが訪れ、逆に1.8兆円程度まで下落するとボトムになって買いのタイミングが訪れていたといえます。
しかし足元ではそれを大きく下抜けて7500億円という「リーマンショック」以降でも裁定のレベルに落ち込んでしまったことがわかります。
外国人投資家が日経平均先物を売ると、先物が現物に対し一時的に割安になるので、裁定業者が先物買い・現物売りを実行し、裁定取引を解消します。
すると、裁定買い残高が減少するわけですが、今はまさにこの状態になっているというわけです。
なぜ外国人は日本株を買いにこなくなったのか?
まず日経平均は、日本人投資家の目で見ますとかなり安くなった気がしますから割安感があるのではと思いますが、この時期ドル円も円高になっていますから、ドル建てで日経平均を見るとそれほど安くはなっていないことがわかります。
また昨年末に米国が利上げを断行し、為替はドル安が鮮明になってきたことからこれまでのように円安は進まなくなっており、企業業績も円安だからこそ収益に下駄をはいてきたことをよく知っている外国人投資家は、日本株に妙味を感じなくなってしまったことはもはや鮮明な状況です。
テクニカル的にはいよいよ底値という見方もできるが・・
BREXITのような危機的な状況では、リスクオフと言うことでいち早く売り込まれるものの、一息ついても相場は元にもどらず、またリスクオフになると下値を試すというのは明らかに市場として関心をもたれていないからで、本来ならここまで裁定買い残が落ち込めばそろそろ底という発想がでてくるのは当たり前です。
しかし、いわゆる平時でこれだけ一人負けの状態が継続していることを考えますと、ここからも外国人は日本株を買いにこないことが容易に予想されます。
また参院選が終わり秋口の大型財政支出が登場するまでは、ほとんど材料がありませんから、上がるより下がるほうを心配したほうが間違いないといえます。
当然ぱっとしない日経平均と連動することになればドル円も下落が予想されることになり、下値のほうを心配する必要があります。しかしこの状態は本当に一時的なのでしょうか?
個人的には完全に「アベノミクス」が終わっていると外国人投資家に理解されていることが足元の相場を形成しているようにみえて仕方ありません。どの見方が正しいのかは、7月以降の日経平均の動きを見ているとその答えを見つけることができそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎)