日本時間の5月19日午前3時に発表された「米国FOMC」の4月の議事録が市場の予想をはるかに超えて「タカ派的」、かつ6月利上げ実施をかなり強く印象づける内容であったことからドル円は買い戻され110円台にまで戻って週の取引を終える形となっています。
ただし、この議事録要旨なるものは正確な議事録とは異なり、かなりデフォルメされたサマリーであることをよく理解しておく必要があります。
FOMC三週間後に公表されるのはかなり恣意的な内容を含む要約
昨年の10月にもこのコラムで既にご紹介していますが、これまでこの議事要旨の作成にあたってきた「FRB」の関係者が議事要旨は単なる議事録ではないことを明確に証言しており、その内容はかなり恣意的に強調される部分が調整だされているものだということを理解しておかねくてはなりません。
米連邦準備制度理事会(FRB)のエコノミストとして約2年にわたり議事録編集に携わった経歴を持つ米ピーターソン国際経済研究所のジョゼフ・ガニオン上級研究員は、これまで米国のメディアの取材に答えて、その内容に騙されてはいけないとの警告を発し続けてきています。
幾つかの重要な詳細部分は5年後の全記録公表でしか明らかにならず、毎回行われる2日間の「FOMC」の審議内容の発言はすべてが盛り込まれているわけではないことがわかります。
この段階で修正や補足の提案を受けて、第二稿が翌週にまとめられることになり、議事録公表前日の正午までに最終的な承認を求めるのが公表までのプロセスとなっているのです。
この時点で最終的に議長判断で強調すべき部分と削除すべき部分が決められることになるようですが、今回は「6月利上げ」を前提として強い内容を打ち出してみて市場の反応と株価の動向を見極めた上で、正式にその可否を判断しようとしていることが、明確になってきているようです。
利上げ見通しで株価は下落も週末は回復
「FOMC議事録」要旨を受けて一旦大きく売られたNY株式市場でしたが、週末金曜日は買い戻しが進んでおり、為替も株価より債券金利の方に反応している状況です。
米国の株式市場の状況はこうしたやり方で掌握できるかもしれませんが、問題は「新興国」にどのぐらいの影響がでるかに焦点が移ってくることになります。
3月以来ドル安と原油高のおかげで、かなり株式相場も回復した「新興国」ですが、ここからまたしても米国の利上げにさらされることになると資金が逃避することは十分に考えられ、米国内での反応とはまた異なる部分がでてくる可能性も高まっているといえます。
金利は早く上げておきたいがドル安は維持したいというちぐはぐな政策
そもそも「FRB」は為替に責任をもっているところではありませんから、あくまで景気が少しでもいいうちに次なる政策の手段となるように利上げをしておきたいというのが大きいな狙いになっていることは間違いありません。
しかし米国財務省は明らかにドル安誘導を志向しており、「FRB」と財務省の政策にまったく整合性が感じられないのが米国のやりかたの実情となってしまっています。
「利上げはしたいがドル安も維持したい」という動きが現実のものとして維持されるのかどうかが今後のポイントとなりそうですが、こうした金融当局の動きが明確になれば、利上げ後にドル円が売られてドル安になるといった事態になることも想定しておく必要がありそうです。
そもそも実効金利レートでいえば、日米の金利差は「政策金利」ほどのものではなくなっているのもまた事実であり、利上げイコールドル高と考えることにもリスクが発生しつつあります。
(この記事を書いた人:今市太郎)