財務省が4月20日に発表した2015年度の貿易統計によりますと、輸出額から輸入額を差し引いた「貿易収支」は「1兆792億円の赤字」となったことがわかりました。
輸出の不振などで依然として赤字は残りますが、東日本大震災以降最大で13兆円あった赤字は大幅に改善しており、原発の再稼動が無理やり再開されれば原油安も手伝って今年の「貿易赤字」は、ほとんど解消に向かう可能性がでてきています。
こうした実需のドル買いの消滅は円高にずしりと影響に
「貿易赤字」などはそれほど為替には関係ないと思われる方も多いと思いますが、為替取引の中で「投機筋」が暗躍するのがほぼ全体取引の1割程度、「実需」も同じく1割程度です。
2013年は今と違って海外の「投機筋」が国策相場にうまいこと乗っかって株の買い上げとほぼ同金額である15兆円程度ドル円をヘッジのために買い上げたようですが、それとともにこの「貿易赤字」13兆円分が反対売買のないドル買い「実需」として機能していたわけです。
ですから、安定的にドル円が上昇したのは当然の話で、今はこの両方がほとんどなくなりかかっていますから少なく見積もっても25兆円以上の買い付け分がどこかに消えてしまった勘定になるわけです。
しかも「投機筋」は買えば必ず売るときがやってきますが、「貿易赤字」のためのドル買い需要というのは未来永劫に反対売買が起きない買い切り玉ということになりますから、その威力はさらに強いわけで、日本の「貿易赤字」の解消はそれだけで考えても、ドル高方向には向かわない可能性が高いといえるのです。
「アベノミクス」がはじまってから日経平均と為替はシンクロして動いてきましたが、今後そのままの動きが維持されるかどうかは、こうした「ファンダメンタルズ」の変化次第ということができそうで、この先も「貿易収支」の動向には注視していくことが必要になります。
既に単月では黒字が継続
一方、同時に発表した28年3月の「貿易収支」は7550億円の黒字となりました。
黒字は2カ月連続であり、これまでの原油安による輸入額の減少もボディーブローのように輸入額を減らしてきており、当面貿易黒字の定着化は進みそうな状況です。
その一方で、米国の「貿易収支」は日本とは逆さまに2014年以降悪化を辿っており、価格変動を除いた実質貿易収支の悪化がかなり目立ち始めています。実質貿易収支は、2013年12月の462億ドルから2016年2月の617億ドルへと赤字が拡大しているのが現状です。
原油安やドル高による交易条件の改善が「貿易赤字」縮小に作用してはいますが、価格変動を除く実質ベースの貿易収支は悪化の一途をたどっていることから、この日米のコントラストをみてもドル高円安が一方的には進みにくい状況が続くことは間違いなさそうで、むしろ円高へのきっかけが増えてきていることが理解できます。
これまで「貿易収支」の動向は長年に渡ってドル円相場との相関性を持っていることが確認されています。為替の変化が「貿易収支」に影響を与え、逆に貿易収支の変化が為替に影響するという相互に影響を与える関係は、今後ドル円の長期に渡る円高への戻りを示唆しているようにも見え、2011年から続いた円安が確実に終焉している可能性が高くなってきているといえます。
足元では日銀の緩和期待からまたしてもドルが大きく戻すのではないかというはかない期待をもっている向きもいるようですが、「実需面」の「ファンダメンタルズ」から見ると2018年ぐらいまでは円高に戻す可能性がでてきており、ドル円は大きく相場が戻せば売り場になることを意識しておきたいところです。
明らかに日本を取り巻く為替の状況が、過去3年間とは異なる方向に向かっていることだけは間違いないようです。
(この記事を書いた人:今市太郎)