14日の夜に発生した熊本を中心とした大地震は、その後さらに大きな本震を引き起こすなど想定外の事態を引き起こし、その被害は当初よりも拡大することとなってしまいました。犠牲になってしまわれた方には心からお悔やみ申し上げます。
この大震災をめぐって為替相場は結構敏感に反応することとなり、とんでもない思惑から円高に動くこともある点には注意が必要となります。
東日本大震災でも円高シフトに
通常のトレーダーの発想でいえば、大きな地震の起きた当事国の通貨を買うというのはどうも釈然としないものですが、実は2011年の「東日本大震災」が起きた翌週の週初からドル円は大きく売り込まれることになったのは記憶に新しいところです。
もちろんこうした動きを仕掛けたのは、外国人の短期投機筋で甚大な被害がでた国内に外貨資産を売却して円転し戻す、つまりレパトリエーションの需要から円が買われる可能性があるとの憶測でドル安円高が示現することになりました。
また、生損保が保険金の支払いのために外貨資産を売却するといった話も実にまことしやかに市場では囁かれることとなり、生損保の実際のアクティビティとは関係なく短期筋の思惑で円高に動くといった事態も確認されています。
しかし、実際には1995年の阪神淡路大震災を含めて生損保が保険金支払いのために外貨資産を積極的に売ったという事実はなく、数千億に上る保険金も震災直後に一気に支払われるといった性格のものではないため、こうしたニーズから円高になるというのはほとんど嘘に近い状態といえるのが実情となっています。
とくに生損保の場合には、その資産運用は様々な分野に分散化されているのは多くの方がご存知のとおりで、国内と海外の債券、株、不動産に分散した「ポートフォリオ」を持っていることから、海外資産だけを保険金支払いのために取り崩すということは極めて現実性の乏しいものといえます。
また損保大手3社だけでも手元資金として支払いに応じられるのは、1兆円近く存在するそうで、大地震が来たからすぐに外貨の資金を国内に円転して持ち込むということはほぼ架空の話とみていいようです。
製造業などの復興資金としての円転需要もごく一部
また、市場でよく聞かれるのは、海外に製造拠点をもって展開するグローバルな製造業が、国内での工場再建のために年度末に纏めているレパトリエーションを前倒しで行うといった憶測の話です。
確かに全くこうしたレパトリニーズは存在しないと否定する事はできませんが、過去3年間の「アベノミクス」による株高と円安は未曾有の内部留保金を上場企業に蓄えさせるきっかけとなっていますので、グローバル展開する製造業も、地震だからすぐに資金の円転回帰とはならないようで、専ら「投機筋」が仕掛ける円買いの理由に使われているだけに過ぎないようです。
しかし恐ろしいのは相場の動きでありまして「海外投機筋」のほとんどがそう考えて相場を展開し始めるとただならぬ大きな動きを示現させる事となり、本当に円高に動いてしまうというのもまた事実で、理由はどうあれ大きな地震が起きると、最近ではその瞬間から円高に動くようになっているのです。
ひとつにはアルゴリズムが地震という言葉をヘッドラインでキャッチするとそのように動くように仕込まれていることもこうした動きに拍車をかけているようですが、短期「投機筋」のみならず先進国の外国人エコノミストでさえ本当にこうした需要があると信じている輩がいるそうですから驚かされます。
理由はともあれ大地震といえば円高を疑うことが必要
まったく体たらくな話ではありますが、国内で大きな地震が来た場合には、一旦はドル円は円高に振れる可能性があることを頭に入れておく必要があります。
ただ、この手の流れで一旦下げた相場は元に戻る可能性が高いですから買い場になる可能性があることも意識しておきたいところです。
(この記事を書いた人:今市太郎)