全般に力量不足との厳しい指摘を受けながらもなんとか「G20」の議長国をこなした中国ですが、いよいよ、3月5日から「全人代」に突入することとなります。
「G20」参加国からは、会議の内容は非公式ながら、中国は人民元の押し下げを始めることはないという確証を得たという発言がでていますが、その一方で、足元の外貨準備の大幅な減少から考えて物理的に「人民元を切り下げ」ざるを得ないのではないかといった観測も高まっています。
中国の動きに詳しい関係筋の事前観測からは全人代の前後に絡めて「中国人民銀行」が「人民元を切り下げ」を発表するのではないかとされてきましたが、本当に何も起こらずに日程を消化するのかどうかが大きな注目ポイントとなりつつあります。
現実の状況はかなり切迫しているとの見方も
「中国人民銀行」は2月25日、輸出促進のために通貨切り下げという手段を使うことはないとしたほか、人民元を対「通貨バスケット」で基本的な安定を維持すると表明していますが、中国自体が直面する外貨準備の減少は想像以上との声もあり必ずしも安心できる状況にはないことを示唆しています。
中国の外貨準備は1月に995億ドル減って3兆2300億ドルとなっています。
これは2014年半ばに比べると7620億ドル減と、スイスの「GDP」を上回る規模で減少しており、1月以降人民銀行が海外の投機売りや国内の資本逃避に対処し、人民元買い介入を行ったことからこのペースは急激に減少していますが、ドル以外の通貨の価値がドル建てで減少していることも、準備高減少の一因となっているようです。
「IMF」の指針によれば、中国にとって安全圏となる外貨準備のミニマムレベルは2兆8000億ドルとされており、足元のペースで外貨が減少し続ければまもなくこのぎりぎりのレベルに到達するのではないかとの見方も強まっています。
ただ一方で2兆ドル以上が確保されていれば何の問題もないといった楽観的な見方もでており、その判断は大きく分かれるところとなっています。
株安、原油安は人民元安・ドル高傾向を示現
これだけ「中国人民銀行」が正面をきって人民元安誘導をしないと豪語しているわけですから、この「全人代」前後にいきなりそれを振り切るような動きにでることは考えにくいとは思われますが、株価や「原油価格」の動向と人民元の対ドルレートに連動性がはっきりと確認できるようになっています。
株高や原油高は人民元高・ドル安が進む傾向にありますが、株安や原油安は人民元安・ドル高が確実に進む傾向が認められています。
現状での株価や「原油価格」の反発は限定的であり、リスク許容度や人民元相場の安定は一時的で、リスクオフと人民元安へと再度スイッチが入ることは注意しておかなくてはならない状況です。
また日本がここ3年ほど積極的に行ってきた円安政策のおかげで、人民元は非常に大きな割を食うことになっており、対ドルでも対円についても今の水準を維持することは極めて難しくなっているという事実も考慮しなくてはならなくなっています。
現実問題としては既に3割近くは人民元安にしてもいいほどの高値水準を保っており、どう考えてもこのレベルを維持することには無理があるのが現実です。
株式市場でも「サーキットブレーカー」の設定をした途端に止めることになった典型的な朝令暮改の主要国である中国が、現在の人民元の水準をどこまで守れるのかに大きな関心が集まるところです。
昨年8月11日に突然人民元の切り下げが断行されたときも「8月24日に大幅な株と為替の暴落」を経験しているだけに、実際のところ中国がどこまで我慢できる状況にあるのかが非常に危惧されるところです。
おそらく今年「原油価格」のさらなる暴落とともに、「人民元の切り下げ」は潜在的なリスクとして最大限の注意を払うべき事象となっていることは間違いなく、下手をすれば相場の大暴落の大きな引き金になる可能性も高まっているといえます。
(この記事を書いた人:今市太郎)