年明け早々、中国上海「株式市場」のサーキットブレーカー発動が金融市場で大きな騒ぎになっていますが、中東ではそれとは別にして、更にきな臭い動きが示現しています。
しかし、国内のこのサウジアラビアとイランの2国による国交断絶をめぐる「原油価格」の動向に関する国内メディアの報道は明らかにその認識が大きく誤っており、FXトレーダーはより現実の正しい情勢とサウジアラビアの思惑を正確に認識することが求められている状況にあります。
今回はこの「原油価格」の先行きについてまとめてみたいと思います。
サウジ・イランの国交断絶で原油価格は上昇しない
一昔前までは、「地政学リスク」が起きればとにかく「原油価格」は暴騰する定番のアイテムとなっていました。しかもそのリスクがアラビア半島に集中するとなれば、誰しもが思い出すのが90年代の湾岸戦争ということになります。
しかし、今中東で紛争が起こっても単純に「原油価格」が上昇するレガシーなリスクを想定しても何の意味もありません。それはサウジアラビアの石油戦略に明確な変化が起こっているからに他なりません。
サウジは米国の「シェールガス」が台頭してきた数年前から、減産することで価格統制を行う戦略から、逆に大増産をすることにより価格的に採算がとれず市場から「シェールガス」プレーヤーが姿を消すことを余儀なくされるような形にやり方を変えてきているのです。
今回のイランやロシアを睨んだ戦略もまったくこれと同様で、一日1250万バレルの精製能力を活かしてさらに増産を行うことで、「原油価格」を思い切り下落させ、各国が採算割れで徹底せざるを得ない状況を作り出そうとしているわけです。
したがってこの国交断絶報道後も「WTI」の原油先物価格は下落を続けており、むしろ短期間に大幅下落に持ち込まれるリスクさえ高くなってきているといえます。
したがって、この国交断絶で「原油価格」が戻すと期待すると・・激しく食い違う結果が現れることになるため十分な注意が必要となります。
サウジは10兆円規模の財政予算ショート
深刻なのはサウジアラビアの財政予算の枯渇です。今年は国債の発行も検討しているということで、この「原油価格」の下落はかなりの覚悟をもって望んでいる、サウジアラビア政府の「政治戦略的」な動きであることがよくわかります。
資金の枯渇のためにサウジの政府系「ファンド」は日本の大手優良企業の株式の売却を急激に進めており、この「原油価格」の下落が長引けば「日経平均株価」の大幅下落も現実のものになる可能性がさらに高まっているといえます。
「オイルマネー」は各国の優良銘柄株の保有につながってきましたので、こうした株式の巻き戻しが本格化すれば株価も下落することになり、この「地政学リスク」の高まりで上昇する相場はひとつもないことになってしまいます。
エネルギー系の大手企業破綻にも注意が必要
以前このコラムでは「グレンコア」が危機的な状況にあることはお伝えしました。
今回「WTI」先物が20ドルになれば、堪え切れず破綻する大手エネルギー系企業が登場する可能性も高まっています。しかもこうした破綻は連鎖的なものになることが予想され、株価暴落の引き金にもなりかねません。
サウジアラビアは、今回減産をしない事で先進国に大きな影響を与えることを十分理解しています。
つまり、生半可なところで終焉を迎えることはありえない状況になったとも言えそうです。
この原油を基点とする問題の構造的な理解を誤りますと、大きな損失を被ることにもなりかねない為、十分な注意が必要です。
とくに今回の宗教的な対立は1400年も前から続いているもので、思いつきで行われている表層的な対立とは大きく異なり、簡単に収まるものではないことだけはしっかり認識しておくことが肝要です。
(この記事を書いた人:今市太郎)