「FOMC」の利上げが起こるかどうか世界中がその動向を気にしているうちに、中国でも目立たぬように大きな動きが出始めています。
「中国国家発展改革委員会」がウェブサイト上に9月16日に掲載した声明によりますと、1年を超える外貨建てもしくは人民元建て証券・融資の発行・調達枠承認プロセスは廃止されることとなり、企業に義務付けられるのは発改委への登録だけとなることが明らかになりました。
8月の人民元切り下げに伴う資本流出を和らげる可能性がある措置の1つとみられていますが、この内容は実に先行き不安な中国の輸出企業のドル調達リスクの増大を示唆するものとなってきています。
ドルの調達コストが上昇するチャイナ・プレミアムとは?・・
輸出を行う中国企業にとってはこの動きからドルの調達コストが上昇する「チャイナ・プレミアム」のリスクが急激に高まりつつあります。
プレミアムアイスクリームのことなどをイメージしますと、チャイナプレミアムとは何かいいことのように思えますが、とんでもない話で、表向きは中国でも民間による資金調達枠の自由化とされていますが、その実態としては政府保証の縮小や外貨準備高の減少が示現することになるだけで、これまで新興民間企業の格付けの支えとなってきた政府・国有企業の信用力低下により、こうした輸出企業のドル調達難が現実のものになろうとしているのです。
これまで中国企業が巨額なドル借入・調達を拡大できたのは、中国政府による厳格な外貨管理の一方での政府と国有企業による間接的な信用保証があったからに他ならず、これが失われることになれば、ますます中国経済は苦境に陥る可能性がでてきているというわけです。
チャイナ・プレミアムは大きな円高要因へと発展も
中国の企業におけるドル調達コスト上昇とドル資金の逼迫が現実のものとなりますと、ドル高・人民安の圧力を一段と加速させることになり、中国での信用収縮が、結果として日本でのリスク回避の円高・株安材料へと発展する可能性が高まってきていることを示唆しているわけです。
8月のリスク回避の動きを見ていますと、この流れが再来することがもっとも可能性として考えられるものになりそうです。
すっかりFOMCで利上げ=ドル高を刷り込まれてきてしまった感がありますが、今や焦点は「FRB」ではなく中国政府の動きへとシフトしつつあることが鮮明になりつつあり、円高というファクターに十分な注意を払うことが必要になってきているのです。
まったく逆さまの円安リスク示現の可能性も
ただし、1998年の「アジア通貨危機」におけるドル円の動きをチェックしてみますとアジア通貨安に引きずられてドル円も円安に動いた経緯があり、人民元安がドル高円安となる可能性もまったく否定できるわけではなくなっています。
既に現在でも囁かれ始めていますが、米国債の処分が進めば米国債金利だけが早いペースで上昇し、金利視点からみればドル高/円安の状況に陥ることも十分に可能性があるわけで、債券金利の上昇に十分気をつかわなくてはならない時期にさしかかっていることがわかります。
短期間に外貨準備が急激に減るだけのことはある状況に
中国当局は、人民元の安定化や資本流出阻止のため、外準の取り崩しを急激に進めている状況が鮮明になってきています。
米財務省が9月16日に公表した「対米証券投資」によりますと、中国の米国債保有は7月に前月比-304億ドル(約3兆6700億円)減となっており、2013年12月以来で大幅な減少となっています。
地域別では国際決済機関・ユーロクリアが設置されているベルギーが-523億ドルの大幅減となっていますが、このユーロクリアを経由した米国債処分が顕在化していることが確認されています。
さらに8-9月はさらに米国債処分が拡大している可能性が高く、習近平の訪米ではこうした米国債の売却問題も話し合われることになると思われますが、この会談次第ではFRBの利上げは今年どころか来年も当分実現できない可能性もでてきており、穿った見方をすれば習近平とオバマの会談を待つために9月利上げを見合わせた可能性すらあるわけです。
こうしたことから、為替相場は年末に向けて気にしなくてはならない要素が大きく変わり始めています。今年金融市場最大の注目点となってきたはずの「米国の利上げ」はすでにそのメインファクターから消えかかっている可能性もあり、どうやらファンダメンタルズの視点として注目すべきものが大きく変わり始めているようです。
(この記事を書いた人:今市太郎)