原油価格を筆頭にコモディティの価格下落がかなり目立つようになってきており、為替市場にも一定以上の影響を与えようとしています。果たしてFRBの利上げ政策にこうした状況が影響を与えることになるのかどうかが注目されるところです。
すでに多くの資源国通貨が多大な影響を受け、大幅な下落が継続するようになっており、しかもその回復が長期間望めない厳しい状況に陥っていることには注意が必要です。
【コモディティとは】
原油、金、プラチナ、穀物など「商品先物取引所」で取引されている商品を一括りにした用語
原油、金、プラチナ、穀物など「商品先物取引所」で取引されている商品を一括りにした用語
コモディティ価格の下落は資源国通貨を直撃
イランの精製再開で揺れる原油価格
イランと米国との核合意が締結されれば原油の輸出が再開されることは以前から取りざたされていました。しかし、それが現実のものになってみるとやはり原油は先物価格を中心として下落が進むようになっています。
OPECの見通しでは秋口までには1バレル70ドル以上に回復といった甘い話もありましたが、価格は下落向にあり、デフレを強める通貨も今後登場しそうな気配となっています。
金価格の大幅下落
7月20日、日本では海の日で休日だった日の朝、上海市場のスタート時期から立ち上がり2分で5トンの金が売られることとなり市場関係者を慌てさせました。
夜のニューヨーク市場でドルベースの金の先物価格が大幅下落したのはご案内の通りです。
株式相場で売りが実現できないために、周辺の相場に大量の売りが持ち込まれるようになっていることは事実であり、外郭的に上海株式市場の影響がコモディティの領域に出始めていることを示唆する動きとなっています。
鉄鋼石価格の下落も歯止めがかからない状況
新興国での経済的発展や産業の進展には欠かすことのできなかった「鉄鋼石」の価格も大幅下落が続いており歯止めはかからない状態となっています。
主要消費国の代表例となっている中国・天津港の鉄鋼石輸入価格は2011年には1トンあたり187米ドルの価格をつけていましたが、今年6月には62ドルまで下落しており、IMFの見通しでは2016年までに50ドルを下回る見通しが出されております。
これが、輸出国には決定的なダメージとなっています。
乳価は1ヶ月で6割下落
ニュージーランドは資源国の中でも乳製品の輸出割合が高いことで有名です。
この乳価にも異変が起きています。6月に比べ7月の乳価は実に6割も価格が下落しており、輸出のほとんどを担っている「フォンテラ」などの企業には大きな打撃を与える結果となっているのです。
こうした状況から、資源国通貨と呼ばれる豪ドル、NZドル、カナダドル、南アランドなどは下落が続いており、しかも実需の輸出産業を守るために自国の中央銀行自ら金利を引き下げることで通貨の切り下げを積極的に行わざるをえない状況が継続しているのです。
コモディティ安はドル高のシナジーへ
コモディティ価格の下落は基本的にはドル高への動きとなりやすく、現実にこうした価格の下落がドルを押し上げつつあります。
FRBの利上げ時期が近づいていることが逆にドル建てでの国際コモディティ価格の下落に拍車をかけているともいえる状況です。実際にカナダドル、豪ドル、NZドルは米ドルに対して大きく下落しさらにドル高傾向に拍車をかける状況となっているのです。
これを受けて資源国は利下げによる緩和を加速させるところも目立ち始めており、資源国通貨=高金利通貨の時代は一旦終焉する可能性が高まっています。
「スワップ狙いでこうした通貨ペアを買い向かっていたトレーダー」は当面その方針をよく考えなくてならない時期にさしかかっているともいえます。
コモディティ安は円高圧力に
円に対しての影響を見た場合、「コモディティ安」は明らかに円高圧力となることは間違いなく、日本の貿易収支の改善から円は資源国通貨に対してもドルに対しても買われやすい状況が高まっています。
特に日銀はこの秋口に追加緩和を行わなくても名目物価2%達成に自信を深めており、コモディティ安から一段の円安が示現するのは難しいのが現実です。
最終的にはこうした円高から日銀がさらなる金融緩和に動かざるを得なくなる可能性も残されていますが、ドル円の動きを別にすれば豪ドル円、NZドル円、カナダドル円などは当面円高に動くことが予想されます。
ですから、クロス円からじわりと円高の動きになることだけは想定しておく必要がありそうです。コモディティの長期的な価格下落は、単純に相場の一時的状況としての資源国通貨安から恒常的な通貨安を継続することだけは十分に意識しておくべきです。
(この記事を書いた人:今市太郎)